ファンドとの会合
「やはり少し窮屈だな」
つい口からもれたつぶやきを、同行者のひとり大村事務長が聞きつけた。
「柏原理事長、気分でもお悪いですか?」
いやいや、京都という町ではなぜか落ち着かない、という本音がちょっと出ただけだと心のなかで舌打ちするように、柏原は「いや平気ですよ」とやり過ごした。
とはいえ、今日面会に訪れた場所は、彼といえども多少の居心地の悪さを覚えざるを得ないところだった。
なんといっても、岡田英人副理事長、大村事務長とともにいま柏原が腰を下ろしているのは、現在の病院所有者であるMスターファンドの応接室なのだから。
上山総合病院の3人の前にファンドを代表するふたりの男が現れた。
「柏原さん、いよいよ動き出されましたね。新天地でも最初から檄を飛ばされた話、お聞きしましたよ」
吉澤圭典代表が少し面白そうに切り出した。
「そんなことはありません。私にできる一番のことを病院全体に分かってもらいたいと思いましてね」
まだ数日しかたっていないのに、全館放送の話がしっかり伝わっている。そんな風に思いながら柏原が答えた。
「まあ、たしかにみな多少は驚いていましたが、現実を共有して病院をひとつにするには理事長のお話は非常に効果的だったと思います」
岡田がサポートするように説明を加える。
当たり障りのない時候の挨拶が終わると、上山総合病院担当として吉澤と同席していた山田真三常務が3人に尋ねた。
「契約内容の変更についてのご相談と連絡をいただいていますが、どのように見直されたいとお考えでしょう」
「いくつかのプランを準備したいと思っているのですが、まずはそちらのお考えをお聞きしないことにはと、と考えまして」
柏原が口火を切る。
「病院の次の段階を考えると、そろそろ建物などの不動産を引き取らせていただけないかと思っています」
吉澤の表情に変化はなかったが、山田の方は大村に鋭い視線をなげた。それに促されるように横から大村がいい添えた。
「苦しい折に助けていただいて一同感謝しております。今回もまず我々の希望をMスターさんにご同意いただけるかどうかの可能性をお聞きしたいと考えてのことで……」
「大村さん」と柏原が遮って続ける。
「不動産を持っていただいたことで、ずいぶん身軽に活動できていたことは事実です。ただ当然デメリットもある。これからのうちの展開を考えると、そちらの方が大きくなってくるというシミュレーションが出てきたのです」
そこで一息つくように、吉澤と山田の目を順に正面から見据え、
「収入に対する賃貸料の割合が大きすぎます。いまや構造的にみて総合病院が決して利益率の高い業種でないことはよくご存じと思います。そんななか、賃貸料が総収入に対して10%を超えてしまうというのは大問題です」