ロータリーにとって大切な概念「職業奉仕」
「職業奉仕」の意味を探るために、一旦、時間を戻そう!
ポール・ハリスがロータリーの創設を考えていた二○世紀初頭のアメリカ・シカゴの世情は、禁酒法施行のもと、アル・カポネのようなギャングが台頭し、世間一般に商業道徳の欠如は著しく、かつ不正行為が蔓延して、拝金主義が支配する社会情勢であった。
それに対峙し正義を守る立場の青年弁護士ポール・ハリスは、職業従事に対してどのような思いを持っていたのだろうか。
僕は、彼の持つ「職業」の基本コンセプトは、当時の状況からは対極にある「勤労」(真面目に働くこと)という単純なことだったと考える。
したがって、彼の考える「職業奉仕」とは、倫理観を基礎にした「勤労による社会貢献」というのが、もっとも彼の持つコンセプトに近いのではないかと思うのだ。
しかも、それはやみくもに利益追求を蔑視することではなかったはずだ。日本資本主義の父・渋沢栄一翁の談話集『論語と算盤』(一九一六年)にいう経営哲学と同じく、「道徳なき商業における拝金主義」と「空理空論の道徳主義者の商業蔑視」を密着させ、現実社会において生活することのできる「道徳に基づいた商業」を目指していたのだろう。
つまりは、「道義・倫理といった人の道と利益追求を同時に兼ね備えた活動」を職業の意とする、との思想であったに違いない。
ロータリーにいう「職業奉仕」の英語表記は「vocational service」だ。
和英辞典には「職業」の単語として、profession と vocation と occupation の三つがある。
professionの pro には「前に出て」や「人様に向かって」の意味があり、fess には「明言する」とか「公言する」の意味があるので、profession は「高度な専門性を有する知識の高いレベルの職業」を指している。
一方、occupation は、occupy が時間や空間を「占める」ことを意味し、「生計を立てるために従事する」職業を指している。イメージとしては会社員のように会社に従属して自らが労働しその対価を得るような職業を指しているのだ。一般的に履歴書の「職業」欄には occupation と書かれている。
そして vocation は、「生計を立てる手段の技能(スキル)を職業」とすることを意味し、その語源は voice やvocal という「声」からきていて、神の声や神の思し召しで与えられた「使命」(仕事)、「天職」と訳されることもある。
したがってロータリーにいう「職業奉仕 vocational service」とは、「天(神)から授かった職業を、高い倫理基準を保ちながら、社会に貢献する場として奉仕の理念を実践していく機会」として解釈することが妥当だと思うのだ。
つまりは「勤労」だ。勤労は、訓読みすれば、「労働に勤しむ」だ。「勤しむ」は、「つとめる」、「はげむ」、「せいをだす」の意味だ。
総じて、「真面目に体力を使って仕事に励む」ことが「勤労」の意味になる。