僕はその三月末に花見例会を催すことを考えた。その際、当地区のガバナーはじめ役員、他クラブの会長・幹事、そしていま入会を勧めている新会員候補者など、大勢をお呼びすることにした。もちろん会費はいただくから予算は大丈夫だ。
そして例会の目玉は、金沢百万石ロータリークラブの面々を招待して、かつアトラクションとして金沢の花街を彩る芸妓衆を一○人ほど呼んで唄と踊りを披露してもらうことを企画した。うちのクラブと金沢との関係を宣伝するのに絶好のチャンスだと思った。
それよりなにより、金沢の美しい芸妓衆の唄と踊りが見られたら皆が喜ぶに決まっている。しかも金沢からの芸妓招聘の費用は、簡単にいうと時間幾らの世界だ。彼女らが自宅の門を出てから帰るまでの時間に応じてその支払い額が決まる。新幹線があればこそ、その移動時間が短縮されてその支払い額が割安になる計算だ。
幹事のHM君(パッケージ製品製造)、親睦委員長のJY君(建設)と予算の算段をした。どうしても一〇〇万円ほど足りない。二人は言った。「この計画は無理です。諦めましょう」僕は、「わかった。僕に考えがある」と言って、翌日、HM幹事を伴って市内の二ヶ所を廻った。
帰りの僕のフトコロには一〇〇万円があった。HM幹事が感心して言った。
「なるほど、お金はこうやって集めるのですね」
もちろん、花見例会の当日、その二ヶ所の幹部は会場の上座に鎮座していることは言うまでもない。この日のもう一つのアトラクションは、この数年後プロ野球球団横浜DeNAの監督に就任するA・ラミレス氏の高崎クラブへの入会式だ。ラミレス氏は片言の日本語でこう挨拶をした。
「ガンバリマッス」
その言葉の本当の意味は分からなかったが、事前に呼んでおいた地元のマスコミ(新聞)は翌朝、大々的にこの例会を記事にしてくれた。ロータリーの公共イメージ向上に大いに役立ったはずだ。なお、ラミレス氏は横浜DeNA監督に就任しても数年間はうちのクラブに所属していたが、現在は退会している。横浜のどこかのロータリークラブに入ったという情報も届いていない。
花見例会は大いに盛り上がった。金沢の芸妓衆は美しい着物を着たまま、カツラを着けたまま新幹線に乗ってやってきた。引率役は金沢のクラブのKGさん(彫金)だ。僕とは酔っ払いながらハグして義兄弟の契りを交わした仲だ。高崎駅に迎えに行った僕は、大奥のお局衆に囲まれたお殿様になったような最高の気分だ。
例会の開会直前、突然ひな壇に整列した芸妓衆による素囃子(すはやし)が始まり、参加者の度肝を抜いた演出は成功した。あとはワイワイガヤガヤ、会場は皆の満足そうな歓声に包まれている。芸妓衆もステージから降りて参加者の間をお酌して周っている。
後日、ここで芸妓たちと交流した会員が金沢でお座敷遊びをしたとき、この例会に来ていた芸妓衆に遭遇して思い出話に大いに盛り上がったと聞いた。少しは皆の役に立ったようで嬉しかった。
僕の方は、この後、新潟市に行って新潟・古町の芸妓衆と飲んだ際にこのときのことを話したら、なぜ隣県の自分たちを呼ばずにわざわざ遠くの金沢から同業者を呼んだのか、とエラク叱られた。それはそうでした。次は新潟の彼女たちを呼ぶことを約束して謝った。
とにかくこういった文化が減る一方の世の中にあって、いまだ芸妓衆が残っている街は羨ましい。彼女たちは、国内最高ランクの絶滅危惧種なのだ。地元の高崎ではいまでは完全に絶滅してしまっている。