不可解な事実
その日は、会社の規定で、年に一度の健康診断の日であった。会社から指定された病院へ向かって、受付を済ませた。
その病院には、妙な噂が流れていた。そこは「死人病院」と言われていて、なにしろ、患者がそこに入院すると、高い確率でそのまま老衰して逝ってしまうのだとか。本当は「市民病院」なのだが。市民と死人をかけて誰かが言い出したらしい。
笑い話にもならない噂を以前から聞いていた蓮は、問題のない検査結果を聞くだけ聞いて、颯爽と自宅に帰りたいと思っていた。
しかし、そういう風にはならなかった。看護士から自分の名前を呼ばれた蓮は、検査室へ入った。
「少しチクッとしますよー」
蓮はしかめっ面をし、針から目を逸らした。子どもの頃から注射されるのが苦手だった蓮だが、それは大人になっても然程変わらない事を知った。
健康診断では、身長体重以外にも、血圧や心拍数、白血球や赤血球の数値まで細かく調べられた。
「宮﨑さん、中へどうぞ」
検査が終わり、待合室で待っていた蓮に、看護士がまた声を掛けた。蓮は診察室に入った。
すると、やや小太りの医者が、診断書を睨みつけて椅子に座っていた。五十歳くらいだろうか。白衣を着て、髪はやや白みがかり、眼鏡をかけている。医者は眉間に皺を寄せ、固く唇を結んだまま、何か言いたそうな顔をしていた。
どこか悪い結果でも出たのだろうか。
蓮は、医者の前に用意されていた丸椅子に腰かけた。
医者は検査結果を見ながら、固く結んだ口を開いた。
「宮﨑さんですね?」
「はい」
「検査の結果ですが、特に体の方に異常はありませんでした」
「そうですか」
蓮はほっと胸を撫で下ろした。
「ただ」
そこで医者は口を閉じた。