病院内の本音
風二がなかば諦めに近い感情を抱いていたまさにそのとき、奥山が思い出したようにいった。
「そういえば、新しい理事長ってなにをしてくれるのかしら」
うんざりしたような口調で渡辺が答える。
「そうだね……柏原先生、だっけ? どうせ新しい人が来たって大して変わりはしないんだろう、またあれこれと引っかき回していくんだろうな。いやになるよまったく……」
「理事長といえば仕事がら風二さんも関わることになるんだっけ……また大変になるかもね」、明美が思いついたようにいう。
「そうだね……」
すでに柏原と顔を合わせていること、仕事を頼まれていることは明かさないまま、風二は浮かない表情で一言だけ答えた。ただ、3人にはその表情が、先行きを思って憂鬱になっているものと映ったらしい。
そこから彼女らの会話は新しい理事長についての評判を経て、その場にいない同僚についての噂話やさまざまな世間話へ。そうしてしばらく時間を過ごしたあと、その日は解散となった。
仲間たちと別れ、家へと戻りながら、風二は複雑な気分にとらわれていた。恐らく自分も柏原と会っていなければ、今日の会話のほとんどに同意していたことだろう。
これまでの経営陣の交代に振り回されてきた経緯もあったし、病院の赤字経営が慢性化しているのを知っている分、経営への不満はため込んできたものもある。あの場で上層部を悪し様に罵っていてもおかしくない。新理事長についてもそうだ。
しかし、いまの彼の頭には柏原の表情とその「病院を変える」という言葉が浮かんでいた。
これまで何度も裏切られてきたかもしれないが、それでもまた微かな期待が生まれつつあった。
ただそれと同時に、さっきまで一緒にいた3人のような考え方こそ、病院内では多数派なのだろうという確信もあった。
柏原の計画はこれからどうなるのだろうか? 先行きへの不安を抱えながら、風二は暗い夜道を歩いて行った。