漁火

時化の日には、彼らは一日中酒を飲む。昼間は家で飲み、夜は仲間と連れだって港近くの飲み屋で遅くまで飲む。大漁の日は大漁の日で気が大きくなり、やはり連れだって飲み屋に繰り出す。港町にはそんな漁師のための飲み屋が昔から一、二軒は必ずあった。

夫孝雄が不名誉な死で命を絶ったあと、家に多少の蓄えは残されてはいたものの生計の源を失い生活に窮するのは目に見えていた。親戚筋は、叔母のように夫に不倫された挙句自殺までされた智子の身に同情や励ましの言葉を掛けてくれることはあっても、母と娘の生活の面倒を看るとまでは言ってくれなかった。

気は強いが華奢な体の智子には力仕事の漁師を継ぐことは考えられず、思案の挙句に思いついたのは夫の使っていた漁船を売り、自分がママとなってスナックを開業することだった。この町にも飲み屋はあったが、高齢のママが経営していて店はママの体調の都合で開け閉めするような状況だった。

母の智子は自殺した夫も酒好きで外で飲めない日があることに不満を漏らしていたのを知っていた。智子の思惑もそんなところで商売の勝算は極めて頼りないものだった。