第1章 邂逅、夕闇のなかの出会い
ほとんど日も落ちきった薄明かりのなか、今日の仕事に区切りをつけた高井風二は、病院の正門に向けて歩いていた。平成14(2002)年に就職してから、毎日のように行き来してきた道だ。
すでに10年以上続けてきた仕事だけに、業務に関してはすっかりベテラン。ただ一方で、当初、感じていた日々のやりがいや新しいことに挑戦したいという気持ちは薄れてきた。とりとめもなくそんなことを考えつつ、先を急ぐ。普段ならこのまま晩酌用のビールと肴でも手に入れて帰宅するところだ。もっとも、今日はこのあとの予定を思い、風二はわずかに気持ちを高揚させて足を速めた。
気がつくと、ちょうど正門付近のいつもとは少しばかり違った光景が目に飛び込んだ。この時間は、普通、自分と同じように日勤を終えて家路を急ぐ職員達が門を出て行くものだが、今日はそれに逆行するような4、5人の影が病院へと向かってくる。
すでに薄暗くなっていることもあり、とくに気にすることもなく近づいていった風二は、2~3メートルほどの距離でやっとその集団の正体を認識した。
まっすぐ前を向き、左右に人をしたがえるようにして話しながら進んできたのは、この上山総合病院の新理事長となった柏原良介だ。一緒にいたのは、新たに病院長となった木村一元副院長をはじめ、病院の首脳陣ともいうべき面々である。距離があってよく見えていなかったとはいえ、そんな人たちをジロジロ眺めていたことに気づいた風二は、多少のバツの悪さを感じた。思わず目をそらして脇を通り抜けようとする。
いや、さすがにそれは失礼だ。そう考えて直前で足を止め、改めて頭を下げつつ、集団に届く程度の声で「お疲れ様です」と挨拶して通り過ぎた。院長たちはそれに軽く会釈し、声をかけることもなかったが、気のせいか柏原だけが、妙に長く風二に視線を向けていたように感じられた。