小説 『余白』 【第9回】 山本 実咲 結婚後発覚したカードローンやら何やらが、もう増えていないことを願う。額は増えていてもいいけど、せめてローン会社の数は… 【前回の記事を読む】「一人で全部育児をする。だからどうか子どもを産んでほしい」――しかし夫は家事も育児せず、これまで以上に「子ども」になった結婚前には突然右脚のふくらはぎに割と大きな柄のタトゥーを二つ入れた。何度見ても何を表現しているのか分からず、それが何なのか何度聞いても忘れてしまうのだが、夏になると毎年、せっかくだから短パンを履けばいいのに、となぜか感じてしまう。タトゥーを入れる日、私は仕事…
小説 『指切り宗佐 愛恋譚 』 【第6回】 星河 三郎 彼が知った残酷な真実――男が毎夜愛していたのは、すでにむごく、痛ましく散っていた姫君だった… 【前回の記事を読む】高貴な姫君の屋敷に通っていたはずの宗佐…しかし和尚が見たのは、鬼火に囲まれ、墓前で笛を奏でる異様な姿だった「……花島家は代々武田家に仕える信濃の有力な武将の一つであったが、天正の甲州征伐で武田軍が織田の軍勢に攻められた際、一家もろとも滅ぼされることが避け難い情勢に陥った。せめて齢十八を迎えたばかりの沙代里姫の命だけでも救えればと、父親の花島親房は敵方が屋敷に攻め入って来る間際…