雨に唄えば

ミュージカルシーンの中には、今日から見ると必ずしも成功したとは言えないものもある。

「闘う騎士」のトーキー化が急遽決定された場面に続き、“色彩人形の結婚”、“シュドゥ・アイ?”など三曲に合わせ、当時のミュージカルシーンのパロディー映像がモンタージュされて流れる場面である。

これらは何れも三十年代に流行したバズビー・バークレイ様式のパロディーになっている。天井のカメラが真上から映す万華鏡のような映像、幾何学的なコーラスのフォーメーション、足だけ映すダンスなどは彼の表現法の特徴である。

しかしこのシーンの挿入が唐突でテンポや内容がそれまでの場面とは異なるため、観客には違和感が感じられる。肝心のパロディーもどこまで理解されたかは疑問である。

そのあとに続く“ビューティフル・ガール”は、ジーンの私設アシスタントだったジミー・トンプソンが十二人のコーラスガールを引き連れ、明るくのびやかに歌い踊るナンバーである。

この場面をきっかけにコーラスの一員だったキャシーが社長のシンプソンに認められて契約に至るばかりか、ドンとの再会も果たすという意味で、ストーリー上大切なナンバーである。

ところが歌の途中、当時流行の服をファッションショーとして見せるシーンが挟まれる。

これはプランケットのデザインの素晴らしさに触発されてドーネンとイーデンスが思いついたシーンで、過去のミュージカルで多用されたファッションショー形式で美女を見せる手法(ジーンがかつて出演した「カバーガール」にも同様のシーンがある)のパロディーになっている。

モデル一人ずつの紹介にイーデンスが風刺やウィットに富んだコメントを考え、それをトンプソンに語らせている。当時ラッシュの段階でこの映像を見た人々は爆笑したというが、時の経過とともにピンとこないものになり、今日ではファッションショーのシーンはストーリーの展開を阻害していると考えられるようになった。

ドンの通う発音教室で、教師を巻き込みドンとコズモが歌い踊る、“モーゼス・サポーゼス”。この曲だけはフリード作ではなく、この映画のためにロジャー・イーデンスが作曲し、コムデンとグリーンが詞を書いた。

舌を噛みそうな発音訓練用の言い回しを繰り返しているうちに興が乗り、周囲の物や人を利用しながら二人がタップを踊り出す。