歌劇 『雪女の恋』

❖登場人物

雪女 こゆき

姉 ふぶき

里人 弥助

山の神

 

合唱

小編成によるオーケストラ

冬の深い山奥と人里での出来事。

舞台に三層の演技空間が組まれた装置。

上層(上舞台)と下層(平舞台)は、登場人物の演技空間。中層(中舞台)は、合唱の歌唱空間。

人物の衣裳・持ち道具以外は装飾的な要素を捨象した何もない空間である。

指揮者席は客席最前列に、小オーケストラ席は舞台上(下手寄り)に設置することを想定している。

第一幕

第一場

音楽「人里に舞う雪 山奥にふぶく雪」。

中舞台に光が射し、〈合唱〉が浮かぶ。※〈合唱〉は男声/女声/合唱という表記になっている。

合唱: 雪やこんこん 雪こんこん

山の里には ゆきがふる ゆきがふる

童(わらべ)が遊ぶ 雪こんこん

童が遊ぶ 雪こんこん

男声: 天ではすすき 下ではぼたん

つもれつもれ 沢山つもれ

積もったうえにまたつもれ

女声: 雪花、散り花、くうるくうると 回り花

つもれつもれ 沢山つもれ

合唱: 積もったうえに またつもれ

雪や凍れ 霰(あられ)や凍れ 

お山の川も とまれや凍れ

凍れ 凍れ 凍れ

女声: 雪やしんしん 雪しんしん

山の奥では ゆきつもる 

合唱: 獣(けもの)も眠る 雪しんしん

草くさ木き も眠る 雪しんしん

山の奥では ゆきつもる

山の奥では 風がふく

雪は しゅうしゅう 吹きすさぶ

男声: 風を呼ぶのは 山の神

吹雪を起こすのは 山の神

女声: 渦巻く雪は 雪女

神のしもべの 雪女

合唱: 山の奥では 風がふく

山の奥では ゆきつもる

雪は しゅうしゅう 吹きすさぶ

音楽「われは大地の守り神」。

上舞台に光が入り、〈神〉が浮かぶ。

神: 遠く遥かな北極星 真上にのぼる白い月 

われは大地の守り神

真白き山よ 永久(とわ)にあれ 

聖せいなる山よ 永久にあれ

われは大地の守り神

穢(けが)れるものは寄せつけぬ 

下界の者は 追い払う 

合唱: たちまち 下りる 白銀の帳(とばり)

たちまち 広がる しろがねの大地

雪は しゅうしゅう 吹きすさぶ 

しゅうしゅう しゅうしゅう 吹きすさぶ

神: われは大地の守り神

穢けがれるものは寄せつけぬ 

下界の者は 追い払う 追い払う

合唱: 渦巻く雪は 雪女

神のしもべの 雪女

平舞台(※以降は「舞台」と表記。)が明るくなり、〈雪女(こゆき・ふぶき)〉が浮かぶ。

神: おお 美しき雪の精 清らかなわが僕(しもべ)

聖なる山に踏み込む者を 下界の者を追い払え

山に踏みこむ人間を 血の温もりを 凍らせよ 凍らせよ 命を奪え

こゆき: わたしは 女 ゆきおんな

ふぶき: ケモノは眠らせ 命を守り ヒトは凍らせ 命を奪う

こゆき: ヒトは凍らせ 命を奪う

合唱: ふぶきとこゆきは 雪女

ふたり姉妹の 雪女 神のしもべの 雪の精

神: あっはっはっは あっはっはっは 

合唱: あっはっはっは あっはっはっは

こゆき・ふぶき: 胸を大きくふくらませ 一息吹けば 

こゆき: 顔は白く凍りつき 体は固くなりたもう

ふぶき: 白きむくろそのままに お山の土となりたもう

神: あっはっはっは あっはっはっは

ふぶき: この世から 消え 消えて お山の土となりたもう

こゆき: この世から 消え 消えて 行方知れずとなりたもう

こゆき・ふぶき: 行方知れずとなりたもう

舞台溶暗。