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内臓の神秘、その前に
休息後、下腹部の皮切りをする。もう我々も、慣れて来た。黙々と勤めを遂行する、プロフェッショナルのように。
恥骨結節の上縁の辺りの高さで水平にまず割線を入れる。そこから、〝下層の血管と神経を傷つけないように注意して、下腹部と(恥骨結節の高さよりも上の)大腿上端部の皮膚を正中から薄く剝がし、皮弁を外側方にめくりかえす〟、とテキストに指示している。大腿上端部は恥骨結節より高い位置にあるから良いとして、外側方へめくるためには上下に切れてないといけないが、テキストには指示がない。そこは常識的に判断して切開を補い、下腹部の皮弁を観音開きにできるようにした。外陰部はそのまま残すので、ちょっと奇妙だ。
臨床的に重要な浅鼠径リンパ節を浅腹壁静脈と浅腸骨回旋静脈を鼠径靭帯の下方にたどって、見つける。
次に外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、腹直筋を確認する。これらは、まるで服を重ね着するように内臓を何重にも包んで守っているといえる。外見の、皮膚の上から見ただけで、誰がこの構造を想像できるだろう。
まず、外腹斜筋を詳しく見る。非常に広範囲を覆う筋で、左右の外腹斜筋によって腹部のほぼ全体を覆うと考えていいだろう。下腹部で腱膜となって、腱膜の下縁は足の付け根まで及び鼠径靭帯 lig.inguinale になっている。この鼠径靭帯の内側の所に、浅鼠径輪という穴のような部分が形成されている。そこを、男性では精索、女性では子宮円索という索、紐のようなものが通っている。こんな所にも男女の違いがあるらしい。