要約するとこうだ。二人が最初に気づいたのはビニール袋のがさがさいう音で、にゃあにゃあ叫んだが誰も来なかった。人がたくさん通ったが誰もが自分たちを素通りしていった。
疲れて眠くなった時ふわっと浮き上がって大きな目がじっと見ていたのを覚えているが疲れて眠ってしまった。
それがおとうさんとの出会いで、そのあとご飯をくれた。小さな段ボールの箱で寝床を作ってくれて、トイレも覚えた。本当はおとうさんと眠りたかったが大人になるまでだめだ、と言って毛布をくれた。
おとうさんが自分たちに怪我をさせるのが怖いと思っているのがわかったのでおとなしく寝た。それから毎日楽しいことばかりあった。
おとうさんは朝出かけていく。学校というところにいくらしい。自分たちの頭をなでていく。そして夕方帰ってくる。急ぎ足で朝よりも自分たちを大事そうに抱きしめる。
おとうさんが心配してくれたのがわかったので、安心させなければならないと思うと勝手にゴロゴロのどから音が出る。それを聞くとおとうさんが笑う。顔をなめるともっと笑う。それからご飯をくれる。楽しいことはもっとあって、ねえさんがやってきた。
ねえさんは同じ学校というところにいておとうさんとなかよくなったらしい。高いゆっくりとした声で話しかけてくれて部屋を綺麗にしてくれる。自分たちのトイレも綺麗にしてくれる。
それを見ておとうさんは喜ぶ。おとうさんは掃除が苦手だから、爪とぎもくれた優しいねえさん。びっくりしたことはもっとあって、ある日ガラガラと大きなバッグを引いてねえさんが来た。
その中には自分たちの三倍くらい大きな猫がいてのそりと出てきた。それがパンのにいさんとの出会いだった。最初はびっくりしたがにいさんもびっくりしたようだ。
にいさんはお店のガラスの中で育って、ある日ねえさんが部屋に連れて行った。外国から来た猫らしいが、自分には兄弟はいない。気がついたらガラスの中にいた同じ猫だし、ずっと一人だったのだから仲良くしてほしいと言った。
昼寝が好きなにいさんは、丸くなって窓のそばのひなたでよく眠る。むくむくの毛は光を吸って大きな焼きたてのパンのように暖かくなる。優しかったしやわらかくて大きな舌で自分たちをなめてくれた。
いつも穏やかですぐに大好きになった。自分たちが仲のいいときは、おとうさんとねえさんは楽しそうに出かけてしまう。でもさびしくない。二人は必ず帰ってくるとわかっているから、帰ってきたおとうさんとねえさんとパンのにいさんとみんなで眠る。
「でも急にねえさんが来なくなった。それから全てが変わった。さびしくなった」
二人はしょんぼりとうつむいてしまった。