僕は決してのんびり構えているわけではなく、いつも今日は早く終わらせようと自分に言い聞かせて、スケッチを開始するのだが、気が付くと教室には数えるほどしか残っていない。楠田さえも、いつも僕より早い。何が原因だろうと思いめぐらせるが、わからない。
結局、絵画の才能がないのだろうという結論に達するが、大体残っている顔ぶれは決まっている。クリスチャンの木本君もたいてい残っているが、僕のようにはイラついていないで悠然とスケッチしている。
翌日は次の章に移り、背中の皮切りから開始である。ライヘを腹臥位、うつ伏せにしなければならない。テキストにはそれ以外何も書いてないが、良く考えると命を失って堅くなっている人体を、位置を変えずにその場で裏返すのは、一騒動だ。
四人でそれぞれ腕と足を握り、持ち上げるまでは良かったが、それからどうするかが問題だった。持ち上げたまま、四人がしばらくその場で立ちすくんでしまった。
遺体の上腕の筋肉の冷たい感触が次第に自分の手のひらにしみ込んでくる。ようやく慣れはじめた環境だったが、再び屍体であることを意識した。