くしゃみとルービックキューブ 5.

次に事務所を訪れたときにはすでに日が落ちて、辺りはすっかり暗くなっていた。中野駅には五時五十分に着いた。六時までにメールを開けなければいけないという決まりだったので、岳也は走って事務所に向かった。

今度は躊躇せず、勢いよくドアを開ける。室内は真っ暗だった。壁に手を這わせて部屋のスイッチを探す。すぐに見つかった。数回点滅した後、パッと明るくなる。強過ぎる白い光が目を射る。もちろん誰もいない。分かっていたことだったが、岳也はほっと息をついた。早足でパソコンに近付く。

パソコンが立ち上がるまでのあいだ、部屋の中を歩き回った。なぜか落ち着かなかった。部屋の電気が明る過ぎるせいかもしれない。あるいは、カーテンが薄過ぎるというのも少しある。歩きながら岳也は腕時計を見た。五時五十五分。部屋を四周ほどしたとき、電子音が聞こえた。素早い動きでパソコンに近付くと、岳也はメールをあけるを確認するや否やクリックした。

画面が白く変わったのを見て、事務所を出ようとドアのほうに歩きだす。その足が、途中でぴたりと止まった。岳也は振り返るとパソコンを見た。それから腕時計を見た。あと二分で六時になる。もしこのままずっとここにいたら、誰かが事務所の鍵を閉めにくるだろう。開けっぱなしということはないはずだから。

その人は暗号を使って添付ファイルを開けるのかもしれない。一体どんな人が来るんだろう? 考えてみると、なかなか興味深いことだった。岳也はパソコンの前に戻ると回転椅子に腰を下ろした。