テーブル席で顔を上げたタクは、辺りを見回している。「ずいぶん遅いお目覚めですね。」ミコトはタクの隣で、必死に笑いをこらえていた。二人がいたのは、まだ先程の酒場だった。だが、もう他の客はいない。
店内にはマスターとミコト、そしてタクの3人だけが残っていた。ミコトに自分が何をされたのか、タクは少し考えてからやっと理解したようだ。ミコトはすぐ隣で優しくタクに微笑んでいるが、よく考えると見た目と違い、怖い女だ。
大人しくタクに話を聞かせるためだけに、あんな行動をとったのだ。
「ミコトって言ったね。酷いよ、こんなことするなんて……。だけど、まいったな。こんなに簡単に罠にはまったのは、これが初めてだ。」
そう言ってタクは、照れ臭そうに頭をかきながら笑った。