孫は、そう言って足早に帰ったそうだ。あとで聞いたんじゃが、孫も内心なれるかどうか、そうとう心配しとったらしい。
おじいさんが近づけば体をまるめて「フーッ」、そばに寄れば「シャーッ」が続いたそうな。まったく水も飲まず、用意しとったキャットフードも食べんかったんじゃ。
「せっかくお前がきてくれたんじゃ。ばあさんに話しかける気持ちでつきおうてみるか? じいさんに時間はたっぷりあるからのう。ばあさん、あの世からどうして飼うたらよいか教えてくれよ」
つぎの日、ミミと名づけて話しかけてみたんじゃ。あいかわらず、「フーッ」とか「シャーッ」とか言っては、おじいさんを引っかこうとしたそうな。
「お前が引っかいても、歳のせいか神経がマヒしとる。えんりょせんで、思いっきり引っかいてみろ」
おじいさんにもそれなりの覚悟ができとったそうな。なにしろ、おばあさんが亡くなる前の数か月間は、認知症がさらに悪化したらしい。
夜中に大声を出して騒ぎだすやら、外をうろうろと歩きまわっているのを連れもどすやら、それはそれは、大変じゃったらしい。だから少々のことでは、おじいさんもめげなかったんじゃ。