くしゃみとルービックキューブ
買い出しの途中で、見知らぬ男性に突然呼び止められた家政婦の柚木。
くたびれた背広に水色のチェックのネクタイ。四十後半といったところか。この男の正体は一体……?
危険な匂いがプンプンしている……解けない警戒心。
自殺したのは、ある食品会社の部長と、チケット会社の社員と、土木建築の専務の三人です。職業的に見て、なんのつながりもないように思えますが、三人は皆、ゴウグループの傘下にある会社に勤めていました。そしてこの三人は、あなたの仕事先の主人である郷田宏道に何らかの関係があります。
上に立つ人間には多かれ少なかれ敵がいるものですが、今まで郷田には不自然なほどそういう人物がいませんでした。けれど、ある事件をきっかけに、今まで水面下に隠れていたことがいろいろと明るみになったのです。三人はその後始末をせざるを得ない状況に陥り、こういうことになったのだと思われます。
それ以降、ある団体が動き始めたという話を我々は耳にしました。その団体が、明日から三日間のうちに郷田の屋敷に何か仕掛けるらしいのです。日時までは分からないのですが、三日間というのだけは確かです。何か仕掛けるというのが具体的になんなのかは分かりません。けれど好ましくない物騒なことであるのは確かです。
郷田はなかなかのつわもので、陰でいろいろやっているようです。これからどんどん露見してくるでしょう。ここで難を逃れても、いずれ人の恨みを買い、こういう目に遭うような人物です。しかし、家政婦であるあなたには関係ありません。あなたは部外者です。巻き込まれて、むざむざ命を落としたくはないでしょう?」
柚木は運ばれてきたレモンティーに視線を落とした。湯気をたてている白いカップを中心に、世界が急速に後ろへ遠ざかっていく気がした。