男の子とアイスクリーム

チラッと腕時計に一瞬目を落としてみると間もなく正午のお昼を告げようとしていた。

私は子供たちを呼びお昼にした。遊具に触って手が汚れているので、持参したオシボリを広げてそれぞれの掌に載せた。子供たちはきれいに拭いて、まずウインナーソーセージにフォークを刺して大きな口を開けパクッとほお張った。

二人とも、大好物のウインナーソーセージをたちまち完食した。おにぎりも一個ずつたいらげた。ウインナーは六本、子供たちはそれぞれ三本ずつ平等に食べた。「半分こ」と言わずとも生活する中で自ずと身についた暗黙のルールだ。

いつも一緒にいるから、性は別であっても遊びも同じになる。息子は、ヒーローと怪獣が大好き。自動車や新幹線が大好き。剣や銃の玩具が大好き。娘はぬいぐるみやお人形さんが大好きと言いたい所だが違った。息子と一緒のおもちゃで二人して戦いごっこや追いかけっこが大好きだ。それも仲が良い証拠なのだ。

私が子供たちと同じ年の頃は、お人形さんやぬいぐるみで遊んでいたなとうっすら記憶している。私は、娘が欲しいと言ったわけではなかったが、ちょっぴり気を利かせて、娘にだけミルクを飲ませる時に目をつぶる赤ちゃん人形を買い与えたが、私の期待は残念な結果に終わった。

女の子らしく、スカートには興味があり、赤やピンク色のを喜んで穿いていたが、お人形さんには全く見向きもしなかった。息子はなおさらだったが、それはそれで安心できた。結局、私の勝手なサービス精神は無駄だった。トホホ。

子供たちは、公園内をかけ回り玉の汗を額に貼っていた。タオルを渡して汗をぬぐった。喉が渇いたと見えて、麦茶を紙コップに注ぐや否やゴクゴク一気に飲み干した。子供たちは飲み終わった空の紙コップをシートに置くとその時、二人同時に道路の方向を向いてミーアキャット立ちした。

二人のミーアキャットの視線を点線で辿って行くと、その先には、緑の木立ちの中に一際目立つピンクの長方形が停車していた。子供たちは、そのピンクのターゲットを目がけて二人三脚で全力疾走して行った。

小さくなる姿を私もすぐ後ろから追いかけ、時間差三秒で追い着いた。そのピンクの長方形はアイスクリーム移動車だった。子供たちは何の迷いもなく思った通りに行動する。大人のようにあーだのこーだのややこしい優柔不断さが微塵もない。ある意味、尊敬の念さえ覚える。

近づくとバニラエッセンスの甘い香りがした。子供たちからは、ピンクのアイスクリーム車のメニュー表は上部にあるため見えないだろうに、いつ決めたのか分からなかったが、注文は二人ともすでに決まっていた。早い! 大人ならメニュー表を一通り見てから最終的に選択すると思うのだが、子供たちは即決だった。

息子はバニラ、娘はストロベリーだ。ピンクの車のお兄さんは、ニコニコ笑顔で注文したアイスクリームを私に渡してくれた。私は両手に二つ持ちそれぞれ渡した。お兄さんに「ありがとう」と元気よくお礼を言った。子供たちはアイスのてっぺんからペロペロと舐め始めた。息子の舌と唇は白く、娘の方はピンクに染まった。満足そうな表情で。

私たちはレジャーシートまで戻って行った。すると、ちょうど子供たちと同じくらいの背格好の男の子と両親と知り合いかと思われる大人三人とすれ違った。三人共、二十代に見え、まだ若かった。

三人の大人の後ろからその男の子はおとなしく付いて行った。子供たちは片手に大好きなアイスクリームを持って夢中で舐めながらレジャーシートの場所へゆっくり向かっていた。男の子は、子供たちが舐めているアイスクリームをジーッと見つめ、すれ違った後もさらに後ろを振り返りながらまばたきせずに見ていた。