セットリストNo.2(第二章)

15 EmergencyCool & The Gang

片山の店、原宿CLUB-Hから六本木に戻るとき、少しだけ昔のことを思い出していた。

翔一が『S』から手を引いたのは、約3年前。定職についていなかったその頃の彼は、毎日の生活で、暇を持て余していた。

これといってやることもなかったその日、気分転換に『きつめのロット』でパーマをかけた。夜になって、問題の先輩が翔一の部屋に遊びにきた。そのとき、その男が持ってきたのが『S』覚醒剤だった。

当時、それの使い方は、当たり前のようにインジェクション(注射器)で静脈に注射するというやり方が、最も一般的な方法だった。はじめてのときに全身を襲った感覚は一言では、とても言い表すことの出来ないほどの、『凄まじい』体験だった。

髪の毛が、逆立つ感覚。言葉では確かに存在しているが、体験することは、まず無いことだろう。だが、実際にそれは体現された。

昨日、かけてきたばかりのパーマがのびきってしまっていたのがその証拠。あくる日、また同じサロンに行き昨日ついてくれた美容師に見せると、彼女は首を何度もかしげながらもう一度、かけ直してくれたほどだった。これは事実。もしあのときに、鏡を見ながらやっていたなら、自分の髪の毛が逆立つ瞬間を見ることができたに違いない。

彼は、それからしばらくSにドップリとハマッた。それを体に入れると、まず眠気が感じられなくなり、食欲は失せ、性欲が信じられないほどに増大する。