妊娠~出産
病室に行く前に六人部屋で待たされた。六人はみんなが妊婦さんではなかった。私の右横のベッドの人は旦那さんと一緒だった。初対面だが、私から気さくに話しかけた。
話していく途中で、このご夫婦は子供が欲しくてもなかなかできないために不妊治療に来たらしいと分かった。今日は「五回目です」と、言っていた。御主人は、ときおり奥さんを労わる目線が愛情に溢れていると感じた。多分この姿はごく普通のご夫婦なのだろうと思った。
私の対面の妊婦さんは、双子らしい。同じ人がいて心強いと嬉しくなった。皆、ここにいる人たちは、温かいと感じられた。ここに来て良かったとホッとした気持ちになった。私がいい精神状態でいることが一番大切だと思った。
入院中は、二十四時間、点滴をした。子宮が開いて早産しないための処置である。胎児は母体に十月十日(とつきとおか)入っていると全てが万全に成長して出産できるが、十カ月未満の場合は、多少の未熟児になるから、生まれてから保育器の中で過ごすことにもなりかねない。
二十四時間の点滴をしていると、たまに点滴が漏れたりする。その時は、シャワーを浴びるチャンス。シャンプーもできるから、さっぱりして気分爽快になる。私が気持ち良いと感じることは、赤ちゃんも同じ気持ちでいるに違いない。いつも私は、三人でいられた。幸せも三倍。
ちょうど、妊娠十カ月を過ぎた頃、腹部がつっ張って苦しくなった。その頻度が時間を追うごとに増してきた。お腹の張りは胎児にも良くない。私が苦しいと感じる時は同じように苦しい。一心同体。
私は、ナースコールをして看護師さんを呼んだ。状態を説明すると先生に確認をとってくれた。明朝、いよいよ私は正真正銘の母になる。