第一章 ラピスラズリの小さな海で
海底都市がSFとして語られなくなってからもう十年は経つだろうか。
紙の本がほとんど売られなくなって、やがて書店というものは姿を消していった。今や人々が紙の本を手に取れるのは地域にいくつかある図書館という施設くらいだ。
だが手元の電子機器を使えばいつでもどこでも電子書籍を読める昨今の世の中で、わざわざ図書館に出向いて本を探し、手に取って読むような人々は“古臭い”あるいは“物好き”と称されたものだ。
それをわかった上で、否、わかっているからこそユウキは放課後になると学校近くの図書館に向かい、閉館ギリギリまでそこで過ごすのであった。
最近のお気に入りは「近代SF」と呼ばれる一世紀ほど前のSF小説たちで、当時近未来の世界として創られた空想のほとんどは今や日常と化している。それどころか、かつての人々の想像をはるかに凌駕するスピードで世界は進化している。それを現代人は誇らしげに語るが、ユウキはそんな彼らを見下し、冷めた目つきで世界を睨んでいた。
多くのものがコンピュータに取り込まれ、システムや情報として管理、使用されるようになった。確かにそれらは非常に便利だが、皆がそれを持て囃すほどにユウキは内心不満と苛立ちを募らせていった。
──ゲームのアバターみたいに、生まれてくる前に自分の容姿や生物の種類を選ぶことができたらよかったのに。
以前、ようやくできた友達にこんなことを言ったのを思い出した。クラスの中心人物である彼は異端児的な扱いを受けているユウキにも優しく声をかけてくれ、他のクラスメイトと同じように接してくれたのだ。だからユウキもすっかり心を許して、つい話し始めてしまった。
──はあ……
彼はユウキから借りて読んでいた紙の漫画から顔を上げ、戸惑ったような顔をした。
──そうしたら僕は人間なんて絶対に選ばないね。もし選べたら、ホオジロザメやシロナガスクジラになっていたな、アマクサクラゲやクリオネも悪くない。とにかく、もっと美しくてたくましい生き物がいるはずだ。そういうものとして生まれてみたかったよ。
──……
いつもの無口な姿からは想像もつかないほど饒舌に語るユウキに「訳がわからない」とでも言いたげに彼は肩をすくめた。それ以来、その友人はユウキと少しずつ距離を置き始めて彼はまたひとりぼっちになってしまった。たまにふと目が合うと、申し訳なさそうに目を逸らされるのがたまらなく悔しかった。またわかってもらえなかった、と。