朝、駅まで自転車で出掛ける夫を娘が重いランドセルを揺らしながら、

「パパ待って~!」

と声を上げながら追いかけていったとき、夫は無視して走り去ったのだ。

娘の声が聞こえなかったはずはないのに、時間が厳しかったわけでもないのに。

娘はただ、「いってらっしゃい」と言いたかっただけなのに……。

子供を無視する、冷たい態度を取る、傷付くことを言ったりやったりすることは、すべて児童虐待になるって知っているはずなのに。

自分を無視して走り去る父親を見て、娘はこちらに向き直り、泣きそうになるのをへたくそなスキップでごまかしながら、必死でこらえて帰ってくる。どんなに悲しかっただろう。どれほど傷付いただろう。

自分は我慢出来るけれど、子供はダメ。

夫はアダルトチルドレンだ。自分がされたことを子供にもしている姿を見て悲しくなった。

それに自分がいつ手を上げられるかわからないような状況になっており、自分が殴られる姿を子供たちに見せたくない。美月はこの結婚生活に限界を感じ、子供たちのためにも新しい人生に踏み出す覚悟を決めるべきだと確信した。

役所の無料法律相談を段取っている部署に友人がいる。離婚問題を得意とする弁護士を紹介してもらおう。我慢し続けて決壊寸前でかろうじて保っていた堤防が一気に崩落していくのを感じた。

色々な苦労を抱えながらも一人で頑張ってきた美月に秀司は何もしてやれないが、美月が愛おしかった。表面上は明るく振る舞い、役人にしては人懐こく人気もある。だがプライベートでは一人で抱えきれないくらいの重荷を背負っているのだ。結婚とは何だろう。

次回更新は5月4日(月)、22時の予定です。

 

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