だが、この会社、「関東エナジー開発」は違っていた。いったん顧問になってみると、先輩刑事から話を聞いていたとおり、表に出ない火種が社内のあちこちにくすぶっていた。そんな関東エナジー開発の惨状を正義感の強い柊が見て見ぬふりができるはずもなかった。
警察の世界も、政治の世界も、そしてビジネスの世界でも、表に掲げる「理想」と内部で機能する「論理」はまったく別のものだった。組織の正義は、時として真実をねじ曲げる。そして「顧問」という肩書もまた、その組織の都合で貼りつけられた、ただの名札にすぎないことを柊は悟ることとなった。
ちょうど柊が警察を退職し、永田町に足を踏み入れた時期に、取引先の銀行から関東エナジー開発に出向してきたのが加納尚人だった。そして顧問に就任すると同時に、柊は加納とともに仕事をすることになった。
元々メガバンクのエリート行員として辣腕を振るっていた加納は、トップの交代によって一転、行内で冷遇されるようになった。組織に順応するよりも自分の信念を貫く性格は、やがて周囲との摩擦を生み、行内に敵を増やすようになっていったのである。
そしてある日、〝関連会社の経営立て直し〟という名目で、関東エナジー開発副社長への転籍が決まった。一見すれば栄転――だが、内情を知る者からすれば、それは銀行における加納のキャリアに幕を引く、事実上の左遷だった。
警察官としての現場叩き上げの経歴を持つ柊と、組織の論理と金融の世界で鍛えられてきた加納。生きてきた土壌が違う二人は、当初から水と油だった。
不正や矛盾に直面するたびに柊は、徹底的に調査すべきだと主張した。一方の加納は、「法的に問題がないなら社内で対処すれば十分」と、現実的な対応を取ろうとした。熱くなる柊に対し、加納は理を説いて応じ、議論はたびたび平行線をたどった。
だがある日、柊は加納が無念にも銀行から左遷され、この会社で働いているという過去を知ることになる。融資を巡るトラブルの調整に追われていた加納が、資料を投げるように机に叩きつけ、初めて声を荒らげたのだ。
次回更新は4月29日(水)、8時の予定です。
【イチオシ記事】店を畳むという噂に足を運ぶと、「抱いて」と柔らかい体が絡んできて…
【注目記事】「今日、主人は出張で帰ってこないの」ホテルの入口で一瞬ためらったけれど、夫だって浮気をしているのだから私だって…