実際、ある中堅企業の社長から聞いた話ですが新社屋ビルの完成後、すぐに大きな壁にぶつかったそうです。

「部署間の距離が遠すぎて連携が取りづらい」「来客動線が不便」など、使い勝手に関する不満が次々と噴出したのです。

担当者は「図面で理解したつもりだった」と振り返りますが、現実の空間を体感して初めてわかる問題が多く、結果的に大規模な改装を余儀なくされたそうです。

失ったのは数千万円単位の追加費用だけではなく、経営の時間と機会です。こうした失敗は、決して特別なケースではありません。

むしろ建築に関わる誰もが、【成功と失敗の境界線】の上を歩いています。

完成後に「こんなはずではなかった」と気づいた時、追加工事やレイアウト変更には多額の費用と長い工期がかかります。

予算が限られていれば不便を抱えたまま運営を続けざるを得ず、やがてスタッフの不満や顧客離れ、生産性の低下が経営を圧迫します。

だからこそ、着工前の限られた準備期間にどれだけ想定し、どれだけ認識を擦り合わせられるかが、成功と失敗の分かれ道になります。

この「試せない」という宿命を前提に計画を組み立てれば、建築は経営にとって最大のリスクであると同時に、最大の武器にもなり得るのです。

「試せない」建築を成功に導く4アプローチ

建物は、一度完成してしまえば簡単に造り直せません。

家具や内装のように「試し置き」や「模様替え」で解決できるものではなく、完成した構造そのものが事業の土台となります。だからこそ、「完成してから気づいてももう遅い」という事態を避けるためには、着工前の準備段階で徹底的に計画と検証を行う必要があります。

本書では、そのための鍵となる4つのアプローチを提案します。