はじめに
「ことば」と「ものがたり」の力を信じて
私は心療内科クリニックを開業して、特に職場で働く人のメンタルヘルスに力を入れてきました。不眠や気持ちの落ち込みがあることはとてもつらいことであり、対応が必要になります。
眠れないから睡眠導入剤、不安な気持ちには抗不安薬を出せば解決するかというと、そう簡単ではありません。不眠ひとつとっても、
・疲れて調子が悪くなったのか、
・職場でショックなことがあったのか、
・人前での大きな発表を控えているのか、
・加齢とともに途中で目が覚めるようになったのか、
不眠に至った経過によって対応が大きく異なります。
実際に、仕事が絡んだメンタル不調の場合には、投薬なしで改善することが少なくありません。そのような経験から、当院ではいつの頃からか、可能な範囲で投薬をしないで、体調の改善を目指すようになりました。
職場で働く方のメンタル不調、こころの健康を考える時には、ご本人と医療者のほかに、会社との関係がとても重要です。職場の上司や同僚と気持ちが合わない、という訴えはたくさん聞かれます。また、仕事の量や質がご自分の資質とかみ合っていない、という訴えも多いですね。
そうなると単純に休養を取って体調の回復を待つだけでなく、復職時に職場環境の調整をすることが必要になります。ご本人、治療者(クリニックなど医療機関)、会社の間の連携という要素がとても大きなポイントになります。
職場で働く方のメンタルヘルスでは、いろんな職場の事情があり、いろんな職員の方との関係があり、お一人お一人状況が異なります。結果的に多様な対応が必要になります。
対応がうまくいけば劇的に元気になられます。しかし希望しても叶わないこともあります。
自分自身の気づきや変化という要素もあります。今まで知らなかった、勘違いしていた、自分の考え方が少し偏っていた、そんなことに気づいてほんの少しだけ修正することですごく楽になることもあります。では、実際に診察室の中で何をしているのか、どんな会話をしているのでしょうか。
実は毎日の診療において、ほぼ全員にお伝えしているのは、承認メッセージです。
場面に応じていろんな言い回しをします。話題をあわせ、表現の仕方を工夫します。その中で、患者さんの反応がうすいものは語られなくなります。試行錯誤する中で生き残ってきた同じ「ことば」や「ものがたり」があります。
治療者と患者さんとの共同作業で出来上がってきたものといえます。同じ言葉やお話をするということは、患者さんたちが同じような場面や状況で悩んでおられる、それに対して同じようなお話をしている、ということになります。共通する因子があるようです。
これまで外来診療において、長い時間をかけて工夫をしてきた「ことば」と「ものがたり」について、これから書いていきたいと思います。