— 四年前 —

私は都内の高校に通う高校二年生の冴木依夢(さえきえむ)。

最寄駅から十五分歩いた後に待っているのは校舎まで続く長く緩やかな登坂。(今日も朝からしんどいな……)と思いながら、コートのポケットに両手を突っ込み、背中を丸めて歩いていた。

「うぅ、寒い……」

坂の上から吹いてくる強い北風に、時々体を押されながら歩く私は、念入りにセットしてきた前髪が崩れるのを防ぐように手で押さえる。

前後には、同じように校舎を目指して歩く生徒たちが列をなす。学校の名前が刻まれた立派な校門を通り過ぎた辺りで「依夢、おはよう!」と声を掛けられ、振り向くと同じクラスの広川莉央(ひろかわりお)が立っていた。

「あ、莉央おはよう」

笑顔で挨拶をすると再び前髪を整え、莉央と一緒にバスロータリーを横切り、その先にある校舎に向かう。

ロッカーで靴を履き替えて階段を上がって行くと、踊り場にはなにやら人だかりができていた。中心には三年生の男子生徒が数名いて、その周りを五、六人の女子生徒が囲み、目を輝かせながら賑やかに話をしている。

私たちはそそくさとその人だかりの横を通り過ぎ、そのまま教室のある三階へ続く階段を上がって行く。

「さっきの見た? 相変わらず人気者だよねぇ。朝から元気で何よりだわ」

感心した様子で莉央が呟いた。

「あの三年生の男子、軽音部の先輩だよね? 去年の文化祭でめっちゃ人気出たらしいね」

私はブレザーのポケットからリップクリームを取り出しながら言う。

長い登坂を歩いた後に階段で三階まで上がると、さすがに息が切れる。

「依夢は模擬店の手伝いと被って、演奏見れなかったんだよね? 相当かっこ良かったよ。あれから軽音部のファンが一気に増えて、毎日のように女子に囲まれてる。あの四人ビジュもかなりいいし、そりゃモテるに決まってるよね。ちなみに、私はボーカルの想(そう)先輩推しだから覚えといて」

「ザ、バンドマンって感じじゃなくて、万人受けする爽やかイケメンだよね。でも私はイケメンってなんか苦手。身構えてしまうというか……なにを話したらいいかわからない」

あまり興味のない話題にテンションも上がらず、リップクリームを塗りながら教室の中へ入る。後ろの壁にコートを掛けて自分の席に座ると、鞄から教科書とノートを取り出し机の中にしまう。それからペンケースとスマートフォンは机の上に置いたまま、前の席に座る莉央に話しかけた。

 

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