「……花?」

その奇妙な光景にぎょっとし、おそるおそるバスタブを覗き込んだ。

するとアヌスに黒薔薇が挿さった全裸の人の臀部が見えた。上体を俯せて顔面をバスタブの底に押しつけるようにして、動く様子がない。顔は妙に歪んでいて、眼球が飛び出すように異様に大きく見開かれていた。

客室係はその目と視線が合ってしまったように感じたのか、悲鳴を上げそうになり、二、三歩後ずさり両手で口を塞いだ。

再度おそるおそる全裸の臀部に近づき突っ伏している顔を覗き込んだ。

すべてが不自然に固まっていて、息はしていないように見えた。

客室係は震える手でスマートフォンを取り出し支配人のスマートフォンナンバーを押した。

「し、し、し、し、支配人、大変です」細く震える声でやっと発声した。

「どうした? 何が大変なのだ?」

「お客さんがバスタブの中で、シッ、シン、死んでいます」

客室係は顎がガクガクと痙攣して言葉が切れ切れだ。

「死んでいる?」

「イキ! 息! をしてないのです」

客室係はその場にへたり込んだ。

「わかった! 今行くから」

支配人が息を切らせてバスルームに駆け込んできた。バスタブの中の死体の状況を見るなり、大きく目を見開いたまま木偶のように棒立ちになり固まった。

「支配人! 早く警察に電話!」

顔から血の気が引いた客室係が叫んだ。

新宿二丁目ゲイ専門ラブホ「XOX」の支配人から新宿警察に通報が入ったのは、午前10時50分だった。

 

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