セットリストNo.1(第一章)
4 Square Biz–Teena Marie
「こんな街ほかには、ないよなぁ……」
飯倉方面から六本木交差点を渡り、防衛庁の前を通り過ぎ、乃木坂に向かって歩いていくと、左に折れる道路、星条旗通り。
そこはT字路になっていて、角にガソリンスタンドがある。
六本木本通りを渡ってガソリンスタンドから数えて、3軒目のビルに『NULLS』という名のクラブディスコがある。
ここは、及川誠という名の友人が、チーフDJをやってるお店。
翔一にしては、比較的長く付き合っている友人の1人。
彼が、DJをやろうと思いだした頃、強い力を貸してくれた恩人でもある。
階段を下りていくと、クロークに女の子が1人立っている。
彼は、軽く頭を下げてから
「及川君に、面会したいんですけど」と言うと、女の子は
「どうぞ」と言って、にっこり微笑んでくれる。
ここは、仲の良い友人のいる場所だから幾度となく訪れている。
『いつ来ても、客が入っているなぁ』と思う。ハヤッテる理由は、DJのウデが、いいからに違いない。
六本木っつってもここらへんは駅からも遠いし、このお店のデザインが特別なわけでもない。お店に相当な、お金をつぎ込んでるようにも見えない、としたらDJの選曲力でつくり出す『NULLS』の雰囲気に導かれて、人が集まってくるということでしょ。
DJブースに視線をやれば、ターンテーブルの前でプレイしているのは、やっぱり及川だった。
ダンスフロアーの景色がとってもいい場所で、壁にもたれ、友人の仕事が終わるのを、選曲の勉強も兼ねながら待つことにした。
しかし、彼のパートのフィニッシュは、間もなくやってきた。
ついさっきまでは絶叫しまくる狂人を、何人もつくり出したウイルス性の熱気は、もうこのフロアーから、消えてなくなろうとしている。
静寂が降り始めたダンスフロアーに、仕事を終えた及川がおりてきた。
翔一は、座っていたスツールを降りて、右手を差し出した。