自分のために隠そうと、人のために隠そうと、うしろめたさがある以上、あやまちになるのだろう。だが、自分がやっていることが間違いだと誰も認めたくはないものだ。

ただ、私の秘密だけはあやまちではないと言える。この革財布が証拠だ。二つ折りの多機能財布。もしあやまちだとしたら、二十一歳の冬に、これを手に入れることはなかったはずだ。

その日の駅前広場には、この街で一番薄着の人間から厚着の人間までがそろっていた。週末ごとにやって来た台風のせいで、一か月のうちに季節が四回変わり、待ちあわせ場所はファッションのるつぼになっていた。

台風をかいくぐった週末に、彼と会った。

やって来たのは四十歳くらいの痩せた男性で、名前は忘れてしまったのでSと呼ぶことにする。時間どおりにやって来た彼は、同じ目線に立つとハーイと声を上げた。

どうも、と笑顔で返しながら疑問が湧く。目の前の男性は、事前にもらった写真と似ても似つかない人物だった。違う人に話しかけられたのではと不安になったが、名前を聞くと彼で間違いない。

またか、と目を覆いたくなった。写真では某カメレオン俳優のような見た目で、身長は百七十あると言っていた。

【前回の記事を読む】「なんで泊まらないの」とタクシーの中で聞いてきた彼。「きりがないから」と私は答えた。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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