第1部 捕獲具開発
3章 仕掛けとその効果
4 餌付け機能を備えた1匹取りの仕掛け
B 捕獲例2 クマネズミの場合
実施例2 グループホームの場合(集団脱走)
一斉転居の謎
これまでの調査から、私はネズミたちが一斉にいなくなることには重大な意味があるのではないかと考えている。一人の笛吹き男が町の130人の子供を連れて町から一斉にいなくなったハーメルンの笛吹き男という有名な話がある。現実にもこの便利な笛があって建物からクマネズミを一掃できれば良いのにとつい考えてしまうのだが、笛がなくてもクマネズミが一斉にいなくなることが時として起きる。
以前、業者仲間との会合の場で、私はある人から面白い話を聞いた。その人は毎年ネズミに悩まされていたのだが、ある日、市販されている捕獲具で大きい個体を捕獲すると、それ以来家からネズミがいなくなったそうである。一斉にいなくなるというのは統率のとれた集団行動であり、家族集団が住み着いている場合、集団を統率するのは親である。親の気持ち次第で寝床を変える場合があるということかもしれない。
ドブネズミでもそうだったが、クマネズミも家族集団の中で、親は特別な存在であり、重要な役目を果たしているような気がする。そして、どちらが欠けても集団に与えるダメージが大きいがために、救出しようと躍起になったのではないだろうか。あの支店から送られてきた見るに堪えないような悲惨な写真は、個体間に強い絆があることの証拠写真だと思っている。
ある状況下では、クマネズミは予想を超える行動をとる。しかし、これらのことは、クマネズミにとっては日常、ごく普通に当たり前のように行われていることなのだから、単に我々が知らないだけなのかもしれない。
いくつか紹介した観察例は、どれも滅多に見られないものばかりだ。特に、涙ぐましい救出劇は再現できるとは思えない。しかし、再現して確認できることでなければ公には認められない。貴重な観察事例としてどこかで公表したいと思っていたのだが、学会と名が付くところでは査読困難の一言で切り捨てられ、投稿したものの論評すら頂けていない。