奥さんとの関係も互いに年齢を重ねたせいか、以前より柔らかく、お互いに自然体で普通の夫婦をしているとのことだった。歳を取るのも悪くないのかもしれない。

もともと飲み食いは豪快な方だったが、それが原因なのか四年ほど前に胃がんが見つかり、自分で相当勉強した上でセカンドオピニオンを求めた大学病院で腹腔鏡による手術を行った。

それが成功して、胃の三分の二と幽門は無くなったものの日常生活に復帰するのも早く、今ではまったく普通に生活し、相変わらずよく飲み、よく食べる。

秀司も身体にはいくつか爆弾を抱えており、特に胃と食道は気を遣わざるを得ない状況だ。

食道潰瘍、胃潰瘍、胃腺腫などで入院したことも何度かあり、そのたびにたとえ評判の悪い病院食でも、ほんの少量のお粥でも涙が出るほどありがたく美味しくいただき、自分で食事が出来て味覚があることへの幸せを感じたものだった。

今のところ胃も食道も導火線に火が付いたらしい兆候は無い。もし発見されたら昭夫のようにセカンドオピニオンを求めたり深く勉強したりするだろうか。あまり自信が無い。

六十歳まで生きた。今の世の中では長生きとは言えないが、自分なりに存分に生きた。この歳ではもう健康診断などであら探しをせず、また病気が発覚しても治療などせずに、病気で死ぬも寿命と心得、自然に任せて静かに死を迎えたいとも思う。

抗がん剤や放射線治療によって苦しい思いをし、家族に大きな負担を掛けたくないという気持ちもある。特に抗がん剤などは先進国ではあまり評価されていないというが、日本では手術、放射線、抗がん剤というのが癌の三大治療で、莫大な利益を生む癌産業の根幹を成している。

次回更新は4月2日(水)、20時の予定です。

 

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