「圭人がいいと言ったので、婚約者の振りを続けます」

「そうか、よろしく頼む」

俺は墓石に手を合わせ、心の中で俺の気持ちを伝えた。沙優は俺が幸せにします、婚約者の振りではなく人生の伴侶として……俺と沙優はマンションへ戻った。

「沙優、婚約報告会見開くぞ」

「はい」

沙優は納得してくれた。俺はその日から沙優と夕食を共にした。

「沙優、今日は外食しよう」

「いいんですか」

「ああ、何か食べたいメニューあるか」

「なんでも大丈夫ですよ、嫌いな物はないんです」

沙優はニッコリ微笑んだ。俺はなぜか不安な気持ちが拭いきれなかった。沙優は元彼とは死別だ。結婚式当日にバイク事故で亡くなった。今でも愛しているんだろう。俺を好きになってくれる可能性はあるのだろうか。

沙優は俺とは婚約者の振りの関係と思っている。俺が愛しているのは俺の彼女と思っている。そう、彼女とは一ヶ月ほど会っていない。俺が連絡しなければ彼女からは連絡はない。

俺が沙優を助けて一緒に暮らし始めて一ヶ月ほど経つ。今、俺は沙優に夢中だ。今までの俺には考えられないことだ、女に夢中になるなんて……俺は沙優と結婚し、このまま一緒に暮らしたいと考えている。そんなことを考えていると、沙優に彼女の事を聞かれて現実に引き戻された。

「南條さんは彼女さんと結婚したいと思わないんですか」

「ああ、そうだな」

「えっ、どうしてですか、愛しているんですよね」

「どうかな、よくわからない。沙優はどうなんだ、元彼を今でも愛しているのか」

俺は思い切って沙優に聞いてみた。

「そうですね、圭人が亡くなって、もう五年経ってるし、今好きな人が現れたら、その人を愛しちゃうかもしれませんけど……」

好きな人が現れたら、俺は対象ではないってことか。