「いらっしゃいませ。お待ちしていました。今井様」
気持ちよく迎えて頂いた。素敵な着物が沢山あり、目移りしそう。
「好きな着物を選びなさい」
じっくり見て、素敵な菊の花が流れるような模様、色も薄い桃色、とても優しい。
「これに決めました。これを着て、いつも行っている、ギャラリーに行きたい。優しい絵画の色と一緒ね」
「そうだね。君の描く絵の優しい色と似ているね。他に帯は? 紐みたいな物は?」
「それはあるの」
「奥様、袖を通してみましょう」
「綺麗だ」
「一緒に帯も揃えたら」
「この色に合う帯があります」
「そうか」
「これでお願いいたします」
「意外と安いけどいいの?」
「好きな絵柄は金額じゃありませんよ。私はこれがいいです」
「草履は?」
「あります」
「今度の企業会に着ますね」
「おおーいいね!」
「二週間後にお届けいたします」
「山本様の本当に大切なご友人なのですね。直接、お電話がありましたので、びっくりいたしました。それに奥様があまりにも、亡くなられた山本様の奥様に似ていらっしゃいますのに驚きました」
「店に行くと社員の方は一瞬手が止まるのですよ」
「そうなんですか」
「それでは、よろしくお願いいたします」
「はい、承ります」
お店を出てタクシーを探そうと思ったら、先程の運転手さんが待っていた。
「えっ、どうしたのですか?」
「山本より、お食事の場所までご案内するように言われています」
「ごめんなさい。随分待たせてしまいましたね」
「いいえ、待っていると話しますとゆっくりできませんので。大丈夫です。お気遣いありがとうございます。どうぞお乗りください」
「ありがとうございます」