第3章   私が知っている私のこと

妻と出会う前

3年生になると最初に好きになった女の子と、また同じクラスになりました。理系の進学コースだったので、女生徒は彼女を含めて数人でした。毎日、彼女が気になる日が始まりました。

彼女の友達が合唱団の部長をしていて、彼女に文化祭に出演するために急遽、部員を増やしたいと頼んだそうです。私は彼女から、文化祭の合唱に誘われてすごく嬉しかったことを思い出します。合唱できるかどうかは二の次で、とにかく誘われたことで文化祭まで毎日充実した生活でした。

私たちの高校の文化祭ではダンスパーティがあり、その日はみんな楽しそうに踊っていました。私はそんな光景を眺めながら、みんなは何処でダンスなんか覚えたのだろうと、不思議がっているだけでした。

周りに置かれた木製の椅子にただ座って、みんなの姿を見ていました。きっと羨ましそうな表情を満面に浮かべていたのかもしれません。男友達が二人近づいてきて、からかい気味に声をかけてきました。

「お前あの娘が好きなんだろう。ダンスに誘えよ」

しきりに、けしかけてきました。

「俺、踊り方も知らないし、ダンスは、ちょっと遠慮しとくよ」

私は動揺を見抜かれないように、目を合わすことなく言い返しました。「最後はさあ。チークダンスだから、手握ってくっついてるだけでいいんだぜ。もうすぐ最後になっちゃうぞ」