いよいよ調停の日が来た。しばらく会っていない享子に会えるし話もできる。調停申告しておいてよかったと、トシカツは思った。何かワクワクしている。手続きを済ませて待合室で待っている。まるでデートの待ち合わせのような顔だ。
しかし、享子の方はといえば、調停を受け入れたのは、ちゃんとした所で離婚を進める話し合いをしたかったからだ。もう享子は離婚しか考えていなかった。第三者を入れて冷静に話し合いをすれば離婚につながるという、強い思いで調停に来たのである。
お互いの温度差はまるで赤道直下と北極くらい違うのである。アニメの『ワンピース』的にいえば、赤犬と青キジの戦いのような感じである。そんなお互いの思惑を乗せ、いよいよ面会時間が近づく。案内の人が「お入りください」と言った。
トシカツは、まるでタキシードスタイルで花束でも持っているかのような面持ちで調停室のドアを開けた。すると「あれ?」待っていたのは年配の調停委員2名。机の奥の壁側の真ん中にポツンと二人、座っていた。「ん? どういうこと?」トシカツは目をこすりながら、部屋の隅から隅まで見渡した。
享子どころか他に誰もいないシーンとした中、調停委員が静かに喋りだした。
「享子さんは面会拒否を希望ですので、とりあえず座って、あなたのお話をお聞かせください。伝えますので」
「面会拒否?」
トシカツは、突然「バーン!」と足払いを食らったかのように何にも抵抗できず倒れこみ死んだかも?
調停委員は静かに名前と住所を聞いて「離婚調停ですか? 和解調停ですか?」と尋ねてきた。いやいや、ちょっと待ってくれ。オレは誰と話し合いしているのだ? トシカツは落胆と嘆きに似た感情に押し潰されそうになる。享子に会えないのか? 会えないのか。
涙ぐみながらやっと絞り出した声で「和解したいのですが、そのために来たのです」
調停委員は「奥さんは離婚したいとの考えですが」
続けて「小川さんはお酒をお呑みになりますか?」
「はい」
「だいぶ呑まれるとお聞きしましたが?」
「仕事柄朝早いので寝酒代わりには」
「暴力は振るいましたか?」
トシカツは「はい」と答えた。
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