「なんでなの」

怒りが涙と混ざっていた。こぶしが僕の胸を責めるように叩いた。力はこもっていないのに臓器がえぐられているように痛かった。僕は宮園の肩をつかもうと手を伸ばしていたが、その手を引っ込めた。僕が傷つけているなんて知らなかった。

「ごめん」

「いなくなった後、どうやって私が生きていたか考えたことある?あんたなんか大っ嫌いでいなくなって清々していたのに、戻ってきて話しかけてくるなんて」

宮園はまた苦しそうに眉を寄せて俯いた。

「お母さんが首を吊ったのは翼君のせいなんじゃないの」

さっきまでの怒りが嘘のように静かになった。つぶやきにも似た小さな声は明らかな凶器だった。けれど、気になる部分がある。僕は宮園の肩に手を伸ばした。その自分の軽率な行動に、後悔する間もなく、その手は弾かれるように振り払われた。

「もう構わないで」

睨みつけられて僕は尻込みする。宮園は逃げるように走り去っていった。ここまで拒否されて、追いかけることはできなかった。

「うわー。お兄ちゃん嫌われてやんの」

「女の子泣かしちゃいけないって、お母さん言ってたよ」

「兄ちゃんどんまい」

「次があるよ」

公園で遊んでいた子どもたちがフェンスにしがみつくように集まっていた。僕らの様子を伺っていたのだろう。僕は好奇心旺盛な丸い瞳に構える余裕もなくそうだねと適当に流しながらその場を去った。

とてもじゃないが次回のことを考えることはできない。宮園に勝手に抱いていた思いは二度と叶わないと今知ったばかりだ。七・八年以上、下手したら十年近く抱いていたこの想いは今この瞬間に捨てなければならないのだ。その時間は僕の人生の大部分を占めている。

簡単に割り切れるものではない。宮園は友人としての関係さえも拒んだ。僕は何をやっているんだろう。自嘲が襲う。こんなことなら再会しないほうがよかった。諦めて忘れていたのに。

いつから宮園は僕のことを嫌っていたのだろう。高校に入学してからか。いや、宮園の口ぶりからすると、小学生のあの頃まで遡りそうだ。一緒に遊んでいた時は楽しかったが、それは僕だけの勘違いだったのだろうか。

僕らは公平に揶揄い合う関係だと思っていたが、本当のところはどうだったのだろうか。宮園は自己防衛のために僕と同じ攻撃を返していたとも考えられるのではないか。だとすればもう目も当てられない。全ては僕の勘違いだったのだ。宮園を傷つけていたという事実にただただ困惑する。

謝罪したいが、宮園は望まないはずだ。宮園の望みは僕が関わってこないことだから。謝罪なんかもっての他。恐怖を与えるだけに決まっている。だから僕のとるべき行動はこの罪悪感を抱えたまま、宮園から距離を取ることだ。

これから同じ学校で三年間、知らぬ人のように過ごすのだ。そう考えると家に帰る足取りはとても重かった。

【前回の記事を読む】「あなた、脅されているの?」終わったと思っていたあのことは…。