夏山にて2

栗の花が落ちている

茶色のブラシのような姿をして

あんなに群れていた蛾や蝶は今はいない

受精を終わって栗の木は静かに立っている

あの(ひと)の言った言葉も

あの時に受けた繊細なときめきも

今はもうない

風が茅を揺らして吹き過ぎて行く──

草の葉にいなごの子が止まっている

同色でひっそりと、まるで影のようだ

(からす)が奇妙な声で鳴き始めた

二羽だ。つるんでいるんだ

   

生きていくことは何と

悲しいことなんだろう──