記念の一枚
桜は葉桜に変わりました。
これから一雨ごとに青葉の季節になっていきます。
子犬のここあは「さんぽ」という言葉がわかるらしく「散歩に行こうか」と言うと私の前を独楽(こま)のようにクルクル回ります。
まだ、桜の花が咲いていた休日の午後、ここあと桜の記念撮影に出掛けました。
シッポを立てて楽しそうに歩くここあ。
桜並木の少し手前の店先に来た時、ここあと私の足が止まりました。
店先には箱があり、
その中には
毛が抜け落ち、横向きに寝ている白いトイプードルが。
「どうしたんだろ?」
そんな思いで白いトイプードルを見ていたら、お店の中から「あら、可愛いわね」とお店の女将さんらしい年輩の女性が出てきました。
「うちのは、もう、老犬」
「15歳」
「歩けなくなってね。一日中、こうして寝ているのよ」
「目も見えなくてね。元気に歩いてた頃もあったんだけどね」と話してくれました。
話を聞きながら老いたトイプードルを見ていると、涙が出そうになりました。
横たわっている老犬を優しく撫でて、私たちは、お店を後にしました。
桜の花びらが幾重にも舞い落ちている道をここあと歩きました。
老犬は、今、歩くことも、桜の花を見ることもできません。
そんなことを考えていたら
突然、強い風が吹いてきて、桜の花びらが宙に舞いました。
そして、舞い降りる桜の花びらの先に、楽しそうに歩く白いトイプードルと年輩の女性が。
「なんとなく、さっきのお店の女将さんに似ているけど、少し若いかな?」
女将さんに似た人が話しかけてきました。
「可愛いわね。いくつなの?」
「1歳です」
「うちのは3歳」
「あそこの桜がきれいよ。今、写真を撮ったところなのよ」
「そうですか。私もここあとあの桜の木で写真を撮ってきます」
数日後、私は写真店に写真を受け取りに行きました。
写真を渡される時、店員さんに「ずいぶん前に撮った写真なんですね」と言われました。
「えっ?」
ここあと一緒に写った桜の写真。
右下の日付は
12年前の2010年4月14日と記されていました。