智子は、亭主に付き添って行きたかったが、渋々その時の状況に従わざるをえなかった。だから、亭主を大阪に単身赴任させていることを、いつも恥ずかしく思っていた。平成五年も一月末を迎えようとしていた。

世間ではたいていの企業が、毎月二十五日が給料日であるが、達郎が勤務する会社も例外ではなかった。その日、給与明細をもらった達郎は、それを開封もせず、昼食を食べた後、銀行ATMに直行した。

御堂筋沿いにある都銀の現金自動支払い機には、今日振込まれたばかりの給料を引き出そうとするサラリーマンやOLたちが長い列を作っていた。達郎は、その日の夜、以前から目を付けていた総務部の吉沢美里と食事をすることになっていた。

美里は入社三年目の二十五歳で、中肉中背よりやや細身だったが、ほど良い胸のふくらみが、形の良い上向きの乳房を連想させた。すらりと伸びた細い脚が、タイトなミニスカートときれいに調和していた。

多少茶色味がかったつやのある長い髪が、背中を十センチほど隠していた。目鼻立ちが整っており、総合的に判断しても、かなりの美人の部類に入るものと思われた。したがって、多くの男性に言い寄られているものと推測された。

しかし、こういう美人に限って、ろくな男と恋をしていないことが、多々あるので、恋人がいようがいまいが、達郎の気にするところではなかった。それに達郎自身が妻帯であり、浮気の相手には別に恋人がいた方が、こちらに没頭されることもないので、むしろ都合が良かった。

美里は、昨年の十一月頃から達郎のいる営業部営業第二課に、総務関係の書類を届けるために、顔を出すようになっていた。彼女は、それらの書類を直接課長に渡すのであるが、課長が不在の時は、必ず課長代理である達郎に手渡していった。達郎は、美里を見た瞬間、自分の好きなタイプだと思った。