食事も日本でも有名なパエリアそしてブイヤベースなど、本場の味を堪能しました。パエリアなんて直径五十センチぐらいの大きなフライパンで多人数分作り、お店のシェフがわざわざテーブルまで持ってきてパエリアのおこげ具合を見せて、これが一番、と日本語でサービスしてくれたんですよ。また、ブイヤベースには多種類の魚介類を入れているから味が複雑に絡み合ってとっても深みがあり、日本では味わったことが無いものでした」

美代子はここまで一気に話し

「全てを話すと夜中になってしまうから、続きは今度にしますね」

美月が目を輝かしながら美代子の話を聞いていて

「私も行ってみたい。私は高校の修学旅行で京都・奈良に行ったのが最後だから、外国なんか夢のまた夢だわ」

と美代子に目線を送りながら嘆いてみせた。悠真が美月の悲しそうな表情をみて、

「そうだよね、美月が山形家に来てから二十年余りになるからね、世話ばかりかけたから、近い内にまとまった休みを取ってもらうよ。お友達と温泉旅行や海外でも行くといい」

「ありがとうございます。嬉しいですわ、でも、私、親しい友達がいないんですよ。家の中が仕事場だから、外へ出ないから。でも美代子さんのように一人旅もいいですね」

美代子が

「そうですよ、一人旅でも現地で友達も出来ますよ。私も今回の旅で旅行に参加した中にお一人さんもいましたから、すぐに友達になれますよ」

悠真が

「心配なんかいらないよ。それより先ほど美代子がおこげの話をしていた、パエリアを食べてみたいね、美代子作れるでしょう?」

と難題を振ってきた。美代子は自信がなかったが、少し間をとってから

「まだ、今ならアンダルシアで見た大きなフライパンを思い出しながら、頭の中でレシピを組み立ててみるわ。あのおこげの具合が大事だから、そして熱せられたオリーブオイルの香りを思い出してみる」

「楽しみだなあ、美月に具材の買い出しを頼めばいいよ」

「美月さん、買い出しに自由が丘の市場へ一緒に行きましょうよ」

「美代子さんがご一緒だと力強いです」

美月は、これまで台所のことは一切、自分一人で仕切って来たので、美代子と買い物に出かけるのは初めてで、嬉しくもあり、一方で自分の領域を侵食されることに一抹の不安もあった。

「それでは美代子さんの都合の良い日に声を掛けてください」

「分かりました」

美代子は、パエリア作りを承諾したが、本当にスペインで食べたようなおこげたっぷりな美味しい料理が出来るのか不安だった。これまでも独身時代から食事の支度は母がやってくれていて、自分はただの食べる人だったから。でも、外食などで美味しい料理は食べてきたので味覚には自信があった。

自室に戻りパソコンでパエリアのレシピを検索してみた。料理サイトにはたくさんのレシピが列挙してあり、アンダルシア地方のパエリアに絞り込んで、あの日のレシピに近いと思われる項目に目が留まった。早速、ポイントをメモ用紙に書きとめた。ふと時計を見ると一時間も検索に没頭していた。