美里の左腕には、菓子が二袋抱えられていた。

売店の店員から釣り銭を受け取った後、達郎は二、三歩歩き出した。美里もそれに引きつられて、歩き出した。達郎は、売店のおばさんの視線を意識して、わざとそこから遠ざかったのである。売店の店員とはいえ、どこで誰とつながっているかわからない、用心にこしたことはなかった。

「皆でお菓子食べるっていうことは、あの大山さんもいっしょ……」

達郎は、わざと顔をしかめて言った。大山というのは、総務部のベテラン独身者で、猛烈に性格が歪んでいて、器量も悪い中年の女のことだった。若手の女子社員からはお局とか主とか言われ、その悪評は社内中に広がっていた。

「は、はい……石原課長代理も、大山さんのことご存じですか」

「皆、お局とか言ってんだろう……」

「は、はい……」

美里は素直に答えた。

「え、やっぱり、ほんとに言ってんだ……。実は俺、大山さんと親戚なんだ。今度会ったら、吉沢美里がお局って言ってたって、言っておくよ」

「え、ほんまに、ご親戚なんですかあー」

驚きの余り関西弁が出た美里は、その場に立ち止まった。そして、見る見るうちに顔が硬直した。それを見て、達郎はわざと顔を険しくした。そして、周囲には誰もいないということを確認して、

「嘘だよー」

と言っておどけてみせた。

「もう、脅かさないでくださいよ……」

胸を撫で下ろした美里は、ほっとしたのかニコニコしていた。この好ましい雰囲気を達郎は逃がさなかった。

「もし、良かったら、来週あたり、晩ご飯でもいっしょに食わないか、おごってあげるよ。どうせ俺、一人で外食しなきゃならないし……」

達郎は、美里を夕食に誘いながらも、それは毎日の外食のついでであり、自分が美里に好意を寄せているからではないのだ、と言いたかった。また、その方が美里も誘いに乗りやすいと思われた。

「ええ、私なんかに、ご馳走していただけるんですか……」

美里の反応には、ためらいも躊躇もなかった。夕食は翌週の月曜日、つまり本日二十五日と決まった。