来栖は結婚後の真理とは疎遠のままだったが、自身でも奇妙だと思える負い目を葛城に感じてしまい、彼とも顔を合わせることを避けるようになっていた。区役所では共同で仕事をこなさなければならないことが一時期あったが、嘱託職員の仕事も辞めてしまってからは葛城と顔を合わせることもなくなった。不安定ながらフリーランサーとしての仕事に専念するようになった時期でもあった。
ところが、葛城と真理との個人的なつき合いが全く途絶えてからおよそ二年が過ぎた頃、彼は突然に葛城本人から連絡をもらった。携帯の電子メール受信欄に、ほとんど忘れかけていた葛城のメールアドレスと要件欄の「近況」の文字を見出して、本当に驚いた。
「近況」の内容はそっけないものでほとんどが日々の仕事の報告で、その他には昔一緒に通った音楽サロンの例会への思い出で占められていた。そして末尾には「共同の仕事も一段落しましたので、やっと時間の余裕も出てきました。そこで旧交を温めるため『お疲れ会』を催したいので、ぜひおいで下さい」と記されていた。
杓子定規でとってつけたような言葉の羅列で、招きの口上もそっけないものだった。彼が応諾しやすいようにと二通りの招待日時を挙げて選べるようにとの配慮もしてくれているので、招きたいとの書き手の気持ちは伝わってきた。もっとも、葛城のいう「共同の仕事」は既にかなり前に終わっていたのでこのような招待の連絡には奇異な感じもした。
しかし結局のところ、来栖は手持ぶさたの時間ができるようなら招きに与る客になっても良いような気分になり、自身に好都合な方の日時を選んで応諾の返信メールを送ってしまった。日を置いて返事をするということもしなかったところをみると、おそらくは、怖いもの見たさという気持ちといえば大げさすぎるだろうが、何か予想外の再会になるかもしれないという期待感があったのだろう。今後葛城との、あるいはそれ以上に真理とのつき合いが再開することもあり得るかもしれないという、一種ゲスの好奇心も作用していたのかもしれない。