「話はこれで終わりか? なら――」
「ま、待って! まだ話は終わってない! その、えっと、強引に連れ込んだのは悪かったけど、料理に罪はないでしょ? 料理もお茶もまだこんなにあるんだから、片付けるまではここにいなさいよ! ……それとも、そうする気も起きないぐらい、怒らせちゃった?」
「……それは……そうでもないが……」
立ち上がりかけたジンを、料理としおらしい表情とで引き止める。彼は迷う素振りを見せ、まだ脈はあると直感した。リリアは再び強気な態度に戻り、強引に椅子に座らせる。
「なら決まり! 一応貴方が希望した通りのメニューを頼んであるんだし、もう少しここにいなさい! つーかいろ!」
「……分かった。何だか、上手い具合に言いくるめられたような気もするが……」
微妙な顔をしつつ彼は元の席に戻り、料理をつつき始める。よしとリリアは心の中で言い、しかしこれでもう後はないぞと自分に喝を入れた。
余り長く話してもまずいだろうし、事情を聞こうとしてもこの不機嫌さである。ならばもう、残った最後の交渉材料――「誘った理由」で攻めるしかない。
(折角見つけた好素材だもの。どうにかして引き込みたいし、少しでも可能性があるなら、やってやるわ!)
気合を入れ、一度深呼吸する。そして最後の話を、「貴方が私の話に乗り気じゃないのは分かったわ」という言葉で切り出した。
「貴方にも事情があるみたいだしね。でもこっちはこっちで事情があるの。そのために優れた戦士である貴方を手に入れたい――私だって、そう簡単に諦めるわけにはいかないのよ」
「……」
「給金とかの話から勧誘に入ったのが気に障ったなら謝るわ。けどそれは、それ程に貴方が欲しいという意思の表れでもあることは知っておいて欲しい。……今から、貴方を誘った理由を説明するわ。これで貴方が受け入れてくれなかったらこの話はおしまい。私も潔く諦めるわ。……どう? 話をしても……いいかしら?」
リリアの言葉が終わるとジンは逡巡を見せ、続けて彼は、その視線をリリアへ向けた。
リリアの真意を見極めようとでもしているのか、ジンはひたすらに彼女を見つめる。それを真っ向から受け止め、リリアも彼を見つめ返し――果たして彼は、「分かった」という言葉を返していた。
「最初の強引さはどうかと思ったが、そこまでの熱意を見せられたら仕方がない。一方的に断ろうとしたのは悪かった。だが、こちらの非礼を謝りはしたが勧誘そのものを受け入れたわけじゃない――そこは押さえておいてくれ」
「分かってるわよ、そんなこと。今は話聞いてくれるようになっただけでも良しとしておくわ。……で」
少し温くなってしまったネリム茶を口に含み、リリアは口内を潤した。
「ここからが本番。ま、冷めちゃってもまずいし、料理でも食べながら私の話を聞いていて。それで受け入れる気になってくれれば、嬉しいわ」
そうして彼女は、話し始めた。