三
案の定、台風と地震が一辺に来たような怒濤が吹き荒れた。
「親を騙すやなんて――。親に噓をつくやなんて」
いやいや、使ってはいけないはずの関西弁になってるんですけど。
「あんたのこと、何を信じたらええの。いったいあんたは、この家をどうしようって思ってんの」
どうもこうも、家というのは単にご飯を食べて寝るだけの箱やと思ってる。それを家庭と呼べるようにするのは、親の仕事やないんですか。
「とにかく、これ以上勝手なことをするんだったら、もう一歩も家から出さないから。そのつもりでいなさい」
監視監督といっても、殆ど家にいない母親の目がどこまで届くというのか。人間の皮を被った鷹やライオンなら分かるけど。
「別にそこまで私に拘らんでも、映美がいるやない。やる気満々の映美に跡を継がせたら、それで済むやない。万事安泰。私は私で勝手に」
言い終わらないうちに、母親の掌が頰に飛んできた。さすがに加減したのかそれほど痛みは感じなかったが、咄嗟の行動に一歩引いてしまった。
ああぁ。母親は大袈裟に溜息をつき、頭を抱え込む。何も分かってない。何も分かってない――。ぶつぶつと繰り返される声が、二十畳はあるリビングにこだまする。
「私、本気で継ぐ気なんてないから。経営もアレンジメントも全く向いてないの、あんたがいちばんよう知ってるやない」
あんたって――。絶句した母親を置き去りにして、自室に駆け込んだ。