エンジンもあったまってきたな

① さらにもう少し書いておくと、俺が高校生の頃は世間では未成年の通り魔、無差別殺人、女性や老人、自分よりも幼い子供への暴力や性的暴行、ストーカー、同級生との些細ないざこざからの殺人など未成年の凶悪な事件がニュースになっていた。

そんな凶悪事件の犯人のイメージが『部屋に閉じこもりがちで人付き合いが苦手』いわゆる当時の俺のようなオタク気質の少年達。父ちゃんはテレビでこの手のニュースを見るたびに、うちの息子もひょっとして部屋にナイフや爆弾を持ってるんじゃないかと悩んでいたらしい。

5 ナイフや爆弾ってww あんたの息子は軍人かww

① 父ちゃんからしたら、バイクに乗る事は確かに校則違反で、これが息子にどうゆう風に影響するか判らないが、このまま成長するくらいならちょっとぐらい不良になった方が扱いやすいと思ったらしかった。

4 究極の選択ww

5 親孝行したれよ。

① この頃本当に父ちゃんと会話なかったから、父ちゃんは俺に興味がないと思っていた。だから父ちゃんがこんなにも俺の事を考えて、心配してくれているのがすごく嬉しかった。

バイク屋が開いて20分ほどすると、店のジャンパーを着たおっさんが青色のCB400を押してきた。「待たせたな、兄ちゃん」。おっさんの笑顔を今でもはっきりと覚えてる。

この世で一番かっこいいバイクだと思った。珍しいバイクじゃない。むしろポピュラーで人気のバイク。同じ型、同じ色のバイクはこの街だけでも数十台、いや、ひょっとしたら100台近くあるかもしれない、日本国内なら数万台かも、それでも自分のバイクが一番かっこいいと思った。

日光を反射するメタリックブルーの車体、おっさんからカギをもらってエンジンをかけた。ヘルメットをつけていなかったからエンジンの音がもろに聞こえた。本当に鼓膜が震えた。最初の破裂音から地響きのような重低音。しばらくバイクに見とれていると、おっさんが優しく話しかけてきた。

「お兄ちゃん初めてのバイクなんだろ? 早く動かしてあげな」

ゆっくりアクセルを回してバイク屋の駐車場を1周した。おっちゃんにバイクの説明を受けてお礼を言った後にバイクに跨るとおっちゃんが「いっぱい乗ってあげてな、お兄ちゃんかっこいいバイクやな」と言ってくれた。嬉しかった。いや、嬉しかったというより何となく誇らしいような、くすぐったいような、とにかく最高の気分だった。

新車のCBは同じCBでも教習所の化石CBと違って少しアクセルを回しただけで怖いくらいにスピードが上がるし、タイヤの食いつきやカーブの曲がり、直線での立ち上がり、すべてにおいて滑らかで、結局この日は夕方までバイクを乗り回し、帰宅後母ちゃんをガチギレさせてしまい、その日の夜は夜で何度もバイクを見に行って父ちゃんをブチギレさせてしまった。こうして我が家にバイクがやってきた。