未来への手紙と風の女
阿蘇に愛車とともに帰るたびに、僕はこのBARを訪れるようになった。いっそのこと、この阿蘇に住むか、そう思っていたときに今の会社の社長と出会うことができた。
あれは、そうだ、このBARで、だった。一つの会社でトラブルがあり、協調性のなかった僕を疎ましく思っていた連中から、その責任は僕にあるという訴えが会社の上層部に送られた。
僕は、そのようなミスはしない。そもそもそのトラブルの原因になるようなことに僕は携わっていなかった。なのに、会社は社員たちからの訴えを重視して、僕に説明を求めた。
──この契約がうまくいかなかったのは、君が妨害したからなのか?
何をバカなことを言っているのだと、僕は反論した。
──そのような業務に私は就いていません。それはあなたたちもご存じのはずだ。その契約を進めていたのは、専務、あなたではないですか?
そして、あいつらが実働部隊だった。僕は全くその契約とは関係がない。僕の反論はまっとうなものだ。誰もそれに反論はできない。なのに、社長はこう聞いてきた。
──専務からは契約寸前だと聞いていたが、君が愚かにも契約の相手先のライバル企業にアプローチして専務たちの契約の妨害をしたのではないですか?
驚いた、正直言って僕は驚いた。何てキタナイやつなんだこの人は。そのライバル企業への契約を推し進めたのは、社長だった。いわば、社長と専務の派閥争いだ。そのライバル企業との契約も、専務たちの進める契約もほぼ同時期に失敗に終わった。
僕は、二つの派閥の均衡を保つためのスケープゴートにされたのだ。
──ばかやろう。
僕はそうつぶやくと、会社を後にした。