【前回の記事を読む】解体工事ばかりで、新しい建物が建たない「とんでもない理由」
第一章 第一発見者
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電話に出たのは、建築課課長の東という男だった。俺は問うた。
「空中と申しますが、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか? ここのところ松平市では、解体工事ばかりで新築工事が行われていないように思えるんだけど、なにか理由があるのかな?」
「え? そうなんですか? そんなことないと思いますけど」東はトボけたように応じる。
ちょっとムッとなり、「街を見てみなよ、一つも新しいの建ってないじゃん。あんたらが許可出さないから、建てられないんじゃないの?」つい、生来のぶっきらぼうが出てきてしまう。
「そんなことありません。書類が来て不備がなければ、我々は許可を出します。それが仕事ですから」
「じゃあ今どれくらいの案件抱えてる?」
「それは、お話しするわけにはいきません。一般に公開するべきものではありませんから」
「あるにはある?」
「もちろん」
「じゃあ友城建設は、今どのくらい確認申請出してるの?」
「だからそういうことは、一般に公開できるものではありません。民間のことですし」
「じゃあ市の方は? なにか新しい施設、建てる予定とかないの?」
「あります、あります。今度新しい図書館が建てられるのとか、知りません?」
まるで市民のくせにそんなことも知らないのか? みたいな小バカにしたような言い種が気に入らないが、そういう計画があると聞いて、少しばかり安心したのも事実だった。やはり俺の思い過ごしで、新築工事はこれから行われていくらしい。本当に偶然、今は新しいものが建てられていないだけなのだろう。とはいえ、あの東というトボけた口調の男を、完全に信用するというのもいかがなものか。というわけで、俺は市役所のホームページを開いて、図書館の新設に関する情報がないのか調べてみた。
ところがどこにもそんなネタはなかった。あの野郎、でまかせを言いやがったか。いや、そもそも市のホームページに載せるべきネタではないのだろうか。イライラしながら更に隈なくホームページを閲覧していると、入札情報に関するページに出くわした。公共工事は基本入札で行われるものだろう。図書館新設が本当なら、載っているはずだ、市営図書館新設工事の入札情報、あるいは落札業者の情報とか。
俺はちょっとドキドキして入札情報を調べてみた。ところが図書館に関するものはなかった。やはりでまかせか。しかしもしかしたら入札がまだ先の話なので、載せられていないだけなのかもしれない。そんなことより、さっきから俺が検索している建築に関する入札情報、おかしくないか? 図書館はおろか、市が建てようとしている物件が一つもないばかりか、あるのは解体工事の入札案件ばかりじゃないか!
沢神地区行政センター解体工事、松平小学校南校舎解体工事、消防東分署解体工事、青少年ホーム体育館解体工事──。
やはりこの街では解体工事しか行われていないし、今後も行われる予定はないのか……。