風呂上がりでご機嫌だったはずの赤ちゃんだったが、急に真っ赤な顔をして気張りはじめた。ウンチをしているようだ。赤ちゃんでもウンチはそれなりに臭った。
ウンチのオムツ替えは大変そうだった。オムツをはずすのと同時に、左手で両ももの辺りを持ち少し上に持ち上げたままキープ。右手で汚れたオムツを横へずらし、せわしなげに何度も尻ふきを取り、汚れたらウンチのついたオムツへ入れ、また新しい尻ふきで尻をふくを何回か繰り返した。
最後におやじさんは「これが肝心だぞ!」と赤ちゃんのおまたをほんの少し指で広げて、優しく尻ふきをポンポンと数回またにあてがった。中にウンチのバイ菌が入ったら大変だからだそうだ。
それにしてもおやじさんは良くできた主夫だったのだろう。心底感心した。もちろんおれはお世話されてる子供だったから見てはいないが、今の手際の良さを見れば想像はできた。
おやじさんは今年六十三だが、三年前に仕事を早めにリタイアして、今は時々バイトはしているものの、一見ただの気の良さそうな普通のおじさんなのに。その実、物すごく育児のできる育ジイだった。おれたち二人をどれだけちゃんと育ててくれたか想像がついた。
オムツをしたのに赤ちゃんがまたグズりはじめた、眠くなったみたいだ。おやじさんは赤ちゃんを横抱きにして立ったまま飲み残しの麦茶を飲ませ、軽く左右にゆすりながら部屋の中を歩き回った。ほんの五分くらいだろうか。赤ちゃんは眠ってしまった。おやじさんはおれの布団のすぐ横に赤ちゃんを寝かせたバスケットをそっと置いた。
一見落着か~!? おれはそう思った。しかし、おやじさんはその後の指示を淡々とメモに書き「明日、また来る」と言い残しさっさと帰って行った。おれはまださっきまでのことが現実とも思えなかったが、おやじさんの残していってくれたメモに目を通しながら、さっきまでのことを何度も何度も繰り返し思い出し復習しているうちに気づくとおれも眠っていた。
赤ちゃんはとても良い子だったみたいで、おやじさんのメモに書いてあった夜泣きとやらもせず朝までしっかり寝ていてくれた。