そんな日曜日の昼食後、透さんは出かけていて、村上夫妻と私の三人だけの時に、皆で台所のテーブルに着いたままで、コーヒーを飲んでいた優一さんが、カップを置いて、「透に継がせられるものもあるけれど、今は医学も技術的な進歩が速いし、医療も昔は当たり前とされていたことが、否定される時代になった。私が扱えないものもあるし、勉強しなければどんどん取り残される。かかりつけの開業医といっても競争だ。レントゲンはあるが、心臓のエコーも揃えたい。透は卒業しても、暫く研修医として学ばなければならないし、その後も勤務医として覚えることも多いが、やがては後を継いでくれると言っているし、入学が決まって良かった」と話しました。
更に私に向かって、「倉知さんも大変だったね。透を長いこと見てくれて、お礼を言います。透もよく頑張ってくれた。入った後も大変だと思うが、世の中、どの道に進んでも楽なものはないだろうし、遣り甲斐という点では、他に負けるものではない。あの子も、親の私が言うのも何だが、そういうことが解っているから、頑張って勉強出来たのではないかと、私は思っている。あの子が一人前になってくれるまで、私も未だ未だ老いてはいられないと思っている」。
隣に座っている玲子さんに顔を向けて、「貴女も、後々のことは考えておきなさいよ。嫁だって相応しい相手でなければ。未だ未だ先のことだけどね」などと話すのでした。
玲子さんの対面に座ってコーヒーを飲んでいた私に、玲子さんが、
「真弓さんには苦労をかけてしまって。本当に有難とう。いくら家族同然の付き合いをしてきた貴女といっても、こんなに長い間、透さんの勉強を見て貰えるとは思っていなかったの。貴女を縛り付けたのではないかと、気にしていたのよ。
けど、貴女の熱心さを見て、言えなかったの。貴女にはもっと違った生活があったかも知れないのにね。貴女に頼んで良かったかどうか。貴女の良い人なのをいいことに、私達は図々しいのではないか、と家庭教師を替えることも考えたことがあったのよ。そう言ったら、貴女はどう答えたかしら。
私は貴女に、少し大袈裟かも知れないけれど情熱を感じたの。教えるのが、透さんということでなくても、人を教育するのが好きなのね。けど、やっぱり悪くて、貴女には何か、お礼をと思っているの。それと、未だ間に合うわ、今だってこんなに綺麗なんだもの、私が必ず、素敵な旦那様を見つけてあげるから、その気にならない? その位はさせてよ」
と言う。