【前回の記事を読む】空中や海上で?私たちの暮らしで活躍する色々な物理探査法とは
第一章 地球の診断
一・四 地下で起こる物理現象
一・四・一 地震波の伝播
地表で人工的に振動を与えたり、あるいは、地下深部で岩盤の破壊により振動が発生すると、それが波として伝播し周囲に広がっていきます。震源から真っすぐに観測点に伝わる直接波、地下の地層の境界面などで跳ね返る反射波、地層の境界面を伝わる屈折波の三種類です。地震波の伝わり方を図1-4に示します。
地表に多くの地震計を並べるといろいろな伝播経路を通った地震波が到達する時間を記録することができます。地震波が私たちがいる地表に達すると揺れを感じます。これが地震といわれる現象です。
地球は近似的に弾性体と考えられます。たとえば、ボールのように手で押すとへこみますが、離すと元に戻るような物体のことです。地震波は弾性体を伝播する弾性波の一種です。そのため、地震波探査は弾性波探査と呼ばれることもあります。
資源探査が目的の場合は地震波探査、建設や土木の分野の場合は弾性波探査という場合が多いようです。地震波探査は以下では地震探査と呼びます。地中を伝わる地震波には、図1-5に示すように三つの種類があります。
地震時の揺れを思い出してください、最初に来る突き上げるような縦揺れの波がP波、少し遅れて来るユサユサと大きな横揺れがS波です。P波のPは「最初に」を示すPrimary、S波のSは「二番目の」を示すSecondaryのそれぞれの頭文字です。平野部のように柔らかい地層が厚い地域ではS波が到来した後、S波よりもゆっくりと揺れる振動が比較的長く続くことがあります。これは表面波と呼ばれる波で、地表に沿って伝播します。
これらの伝播速度は、P波、S波、表面波の順に遅いので、同図の上の図に示したような順番で到来します。弾性体の圧縮や膨張によって発生する歪が、物質内を伝わる現象がP波です。物体の上下の面を反対向きに横にずらしたときに発生するずれの力(せん断力)によって発生するひずみが伝播する現象がS波です。
一般的にP波、S波の速度は、硬い物質中では早く、軟らかい物質中では遅くなります。水のような流体にはせん断力に抵抗がないために、S波はその中を伝播しません。地表に多くの地震計を並べるといろいろな伝播経路を通った地震波が到達する時間を記録することができます。この記録を解析して地下の地震波速度分布を求める探査法を、それぞれ屈折法探査、反射法探査と呼びます。
この他に、地表面などの境界面に沿って伝播する表面波もあります。表面波の伝播速度はS波速度に近いのでその近似値として用いられます。また、波長により伝播速度が異なる特徴を持ち、長い波長ほど深い所のS波速度を反映しますので、多くの波長について観測点における走時を測定すると、浅い所から深い所までのS波速度が決められます(図1-5)。